好きな人 六つ年の離れた兄が大好きだった。 頭が良くて格好良くて明るくて優しくて。 自慢の兄。 僕達の親は2人とも仕事が忙しくてほとんど家にはいなかったが、兄のおかげで寂しさはあまり感じなかった。 彼に会ったのは6年生になった春を少し過ぎた頃。 兄達は高校2年生。 ゴールデンウイーク前、兄が珍しく、いや初めて家に友達を連れてきた。 彼はその年に転校してきたのだと言う。 明るく優しい兄と大人っぽい彼。 僕はとても眩しいものを見るように眺めていた。 邪魔かなと思ったが彼は弟の僕にも気軽に接してくれて、遊んでくれた。 可愛い可愛いと何かと構ってくれて、出来の悪い僕には一苦労だった宿題も良く見てくれた。 彼は一人っ子だから弟がいたら、そんな風に思っていたのかもしれない。 だけど僕は違った。 初めは親戚のお兄さんみたいに思っていたけど、いつの間にか好きになっていた。 兄を思う「好き」と彼を想う「好き」の違いに気付くのはそう難しい事ではなかった。 彼が遊びに来る、その日は胸がドキドキして苦しかった。 だけど嬉しくて。 兄と同じように「ハル」と呼ばれるだけなのに気持ちがほんわりした。 僕より長い時間彼と一緒にいられる兄がとても羨ましかった。 妬んでしまった事もある。 そんな自分が嫌だったが、それでも想いを留める事が出来なかった。 それが恋なのだと。 綺麗な気持ちだけではないのだと、知った。 告白は中学に上がってすぐ。 自分から何かをしたのはそれが初めてだったかもしれない。 悩んで悩んで、ありったけの勇気を振り絞って、死ぬんじゃないかというくらい緊張して。その時の記憶はほとんどない。 生まれて初めての恋と告白。 兄のように頭が良く、格好良い彼だし、なにより同じ男からの告白だ。 当然断られるだろうと思った。 その後、気持ち悪がられてうちにも遊びに来てくれなくなる可能性ももちろん考えた。 それはとても怖かったが、けれど我慢しきれなかった。 気持ちを、知ってほしかった。 認めてくれなくてもいいから。 せめて…………。 その先のことなんて、考えないようにした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |