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B

両親の説得は、最初の一歩にすぎない。

母親は目を見開いた。
子供だと思っていた息子の中に確かな成長を見たのかもしれない。

まさか、親にこんな話をするなんて想像していなかった。
愛している、幸せなんて両親のまえで、恥ずかしげもなく口にするなんて。
話す機会があったとして、それはもっと未来で結婚したい相手を親に紹介する時くらいだろうと。
それでもこんなふうに愛情を宣言する事は稀だろう。

でも世間一般のそれはきっと永遠に自分にはない。
申し訳なくは思うが、はっきり言い切れる。

だから全てを正直に話すしかないと思ったのだ。

真摯な気持ちを。

もう春生以外、愛せないという事も。
自分にとって唯一が春生なのだと分かってもらいたかった。
理解はされなくてもいい。
侮蔑される事も厭わない。

この選択は償いではある。

だがそれ以上に、すべてを捧げる相手に自分は出会えていたと思える喜びの方が遥かに大きい。


もっともっと早くに気付くべきだった。
あんなふうに春生を傷つける前に。
無くしてから気付くなんて、そんな三文小説の題材みたいな事になる前に。

「貴方の想いは、罪悪感から来るものではないの?」
錯覚しているのではないか、そう言うのだ。
「違うよ。」
戸惑うことなく答える。



何度も同じことを聞かれ、同じ答えを口にする。
イライラしたのは確かだが以前のようにふて腐れはしなかった。
子供のような無言の抗議を貫くのではなく、言葉を重ねた。
どうしても、理解してもらいたかったからだ。

拗れに拗れた話し合いは、だけど解決したのは母親の意外な申し出だった。

「春くんのご両親とも話し合いが必要だけれど………」
と、前置きをして健人も考えなかった提案をしてくれた。

「それが貴方にとって唯一の納得できる方法だとしたら、春くんはうちで預かりましょう。
 だから貴方は大学をきちんと出てきちんと就職しなさい。
 何年か経って、あちらのご両親の許可が降りたら、私たちの籍に迎えます。」
「母さん、それって?」
「健人と春くんは兄弟になるってことね。
 成人しているとはいえ貴方の責任は、親である私たちの責任でもあるのよ、健人。」
「和音くんや、ご両親とも話さないといけないけど、まず健人には何よりする事があるだろう?」
「父さん?」
「テレビでしか見た事がないが、麻薬中毒患者の治療は大変だぞ。
 お前はそれをしなければならない春生くんを支えなければならない。
 当然大学も留年なんてさせないぞ。
 分かるな?
 ちゃんと出来るか?」
それは春生を支えつつ、単位は一つも落とせないということだ。
決して楽ではないだろう。
「……………っ、もちろんだよ!」
本当に親は偉大だと思う。
この年になってようやく分かった。
こみ上げてくるものを必死に抑えた。
「今までのようにのほほんと学生生活を送れるとは思うなよ。」
「うん、分かっている。」
「そうか………なら他の事は父さんたちに任せて、おまえは春生くんのところに行きなさい。」
「ありがとう、父さん母さん。」



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