A
あれから春生はこの家、健人の実家で暮らしている。
姓も今は新山ではなく館林だ。
あの日を境に健人は両親にすべてを話した。
自分がこの小さな男の子に寄せた想い。
犯した罪。
それからの事。
友人に弟が行方不明になったことは話していたが、自分がその原因を作ったことはさすがに言えていなかった。
だから当然驚かせた。
許されるとは思っていない。
だから家を出るつもりだった。
春生をあんなふうにしてしまった事はもちろん、息子の性癖に両親が納得出来るとは思えななった。
ゲイではないと思う。
男で好きになったのは、春生だけだ。
勘当覚悟ですべてを告白した。
案の定母親には泣かれ、父親には殴られた。
なんの涙なのか、拳なのか。
たった一人の息子の犯した取り返しのつかない罪にか。
それとも男が男を愛するという非現実を突きつけられたことにか。
そのどちらも、なのだろう。
母の肩も父の拳も震えていた。
だけど、引けなかった。
初めは金切り声で非難され罵声を浴びせられ、父親は堅く口を閉ざした。
口を開く度に殴られた。
だからもうダメだと思った。
家を出るどころか親子の縁さえ切らなければならないのだと……覚悟した。
最後に土下座して、せめてこれまでの親不孝と感謝を口にしたときようやく母親がまともに目を合わせてきた。
そこからようやく始まった話し合い。
これからどうしたいか。
どうしなければならないのか。
親不幸は分かっていたが、それでも責任を取りたかった。
春生を引き取り面倒みるという形でしか、責任の取り方はないと思ったのだ。
当然、両親は反対した。
二十歳そこそこの青年に何が出来るのか、と。
面倒を看きれる訳がない、と。
それも当然の心配だろう。
二十歳やそこらの青年が、十代の子供を引き取るなんて噂にならない訳がない。世間体もある。
自分を思ってくれるからこその言葉の数々。
責任がないとは言わなかったが、春生にも両親がいるし何より加害者である健人を新山家が受け入れられる訳がない、と。
確かにそうだった。
今までにないほど、向き合った。
初めて両親とあんなに話したと思う。
「でもね、健人。ああいう子を引き取ることがどんなに大変か、貴方ちゃんと分かっている?
生半可な気持ちでは、貴方も春くんも共倒れになってしまうのよ?」
「分かって、ないかもしれない。
俺はまだ子供で本当の苦労なんて知らないで育ててもらったし、甘い考えなのかもしれない。
でも大学を辞めて働くつもり。
ハルを引き取って、面倒見たいんだ。
苦労すると思う。
覚悟、してる。
母さん達からみたら半端に思うかもしれないけど、もう後悔だけはしたくないんだ。
償いとかそういう気持はもちろんあるし義務だとも思う。
けど何より俺がハルを傍に置きたいんだ。
側にいたいんだよ。
どうしても忘れられない。
ハルだけを愛してるから。」
それだけで俺が幸せを感じるんだ。
毎日見舞う春生の寝顔を見るだけで挫けそうになる両親の説得も、まだ話し合えると思える。
愛の力、だなんてこそばゆくて口にも出来ないが、あながち嘘だとは今の健人には言えない。
今回の事で健人の中には揺るぎない一本芯が通ったのだろう。
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