容赦無し 「…この娘は違います。元の世界に帰してあげて下さい」 硬直する少女から手を離し、後ろを振り向いた男はその瞬間嘆息した。 先程拳と蹴りを一発ずつ入れた為か、呼び掛けに応じなければならないはずの坊主頭の男は床に突っ伏したまま意識を失っていた。 「たったあれだけで気を失うとはなんと情けない…」 心底呆れたと言わんばかりにそう言った男は、坊主頭に歩み寄るとその襟首を掴み上げ… パァン!! ……平手…打ち? 「な…ななっ何してるんですかっ?!」 「起こして差し上げているんですよ。…ほら、起きた」 かなりの強さで叩かれたらしく、真っ赤な手形を頬に残した坊主頭は小さく唸りながら星のちかつく眼をしばたかせた。 「もう一度言います。彼女を元いた世界に帰して下さい」 言われた坊主頭は目をぱちぱちさせ、返事をするのにしばらく時間が掛かっていた。 それも無理は無いだろう。 密は初対面ながら、手荒な真似ばかりされているその初老の男に同情してしまった。 紅髪の男は丁寧な口調の割に暴力的で容赦が無く、恐すぎる… [前へ][次へ] [戻る] |