おめでとう 「思ったんだが…」 チーズタルトを半分に分けていると神妙とも言える面持ちで壊閻は切り出した。 「三つとも自分で食べるつもりだったのか?」 「悪い?」 壊閻の小皿に半分のチーズタルトを乗せ掛けていた手をぴたりと止める。 「いやっ、悪くないが…」 「べつにいつも三つ買う訳じゃないわよ。昨日は特別」 タルトを乗せ、軽く溜め息をつきながらその小皿を差し出す。 「あ、ありがとう。 …特別って、何かあったのか?」 「昨日は誕生日だったの。私の」 だから奮発して三つも買った訳だ。実際食べるのは一個半になったけれど。 「っ…なら、俺は悪い事をしたな」 「気にしないで。ケーキも一人で食べるより二人の方が美味しいしね」 まあ、まさかこんな不可思議なお兄さんと食べる事になろうとは露にも思わなかったが。 「はい、お茶どうぞ」 「あ、悪い。……なぁ季紗人」 「ん、なに?」 「誕生日おめでとう」 「っ…?」 危うく飲みかけのお茶を噴き出しそうになる。 「…季紗人?」 何も返事をしない季紗人に訝しんだ壊閻が首を傾げる。 「ごっごめん。いや、なんかさ、タイミング微妙にズレてるなと思って」 「?…そうか?」 「なんていうかワンテンポ、ね。でもありがとう。祝ってもらえたのなんか久しぶりよ」 ふふっと笑い、またありがとうと告げた。 [前][次] [戻る] |