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熱視線



「俺は待っていたんだ。あのケーキ屋の夫妻が残りものを分けてくれるのを…。なのに季紗人が…」


その時の心情を思い出したのか壊閻の顔が悲しみに曇る。

そんな悲しい顔をされると申し訳なさで心が痛んだ。
まさかそれ程までに食べ物に餓えていたとは思いもよらなかった。


「季紗人が俺の狙っていたショートケーキを買ったんだ。だから、ついて行った」

「…ぅん?」


ショートケーキ、限定…?


「狙っていたのに、朝からずっと…!」


壊閻の声に力が篭る。

いつの間にかその視線はテーブルの隅に置かれたままのケーキの箱にくぎづけになっている。


(どんだけショートケーキ好きなの?!)


ケーキの箱に、というかその中のショートケーキに注がれる熱視線に内心激しく突っ込む。
偏見だが、こういう美形の人は甘いものが苦手そうなイメージがあった季紗人にとってその壊閻の表情は軽いショックを与えた。


「俺のショートケーキ…」

「…そ…そんなに食べたいならあげようか?」

「いいのかっ?!」


バッと視線が季紗人に移る。
明るさのオーラは先程の比じゃない。


「見返りは何だっ?」

「み、見返り…? いいよ、ケーキの一つくらいただであげるし」


この際『ギブアンドテイク』は無視する事にした。なんだか壊閻が憐れでしょうがない。


「季紗人…お前…っ」


壊閻は感動に眼を見開いたと思いきや、次の瞬間には視界から消えていた。


「え…っ?」

「お前は、なんていい奴なんだ…!!」

「…っ!?」


一瞬の後に現れた壊閻に力いっぱい抱き締められて、小さな悲鳴が思わず漏れた。





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