思わず 「っ……?!」 あれ程自力で止められなかった涙が驚きでぴたりと止まる。 抱きすくめられた季紗人は予想外の青年の行動に固まってしまい息をするのさえ忘れていた。 「…本当にすまなかった」 耳の直ぐ近くで囁かれた謝罪。 恐る恐る見上げると何故かそこには不安に揺れる美貌が一つ… 「……」 「…ごめん。泣かないでくれ」 上を向いた事により目尻から零れ落ちた涙を長い指が拭う。 「っ…」 今更ながら青年の美貌にドキリとした。 目を逸らす事が出来ない。…否、目を逸らす事が赦されない。 よくもまあこんな顔と朝一で見つめ合った時平然と視線を逸らせたものだと、あの時の自分を褒めてやりたい。 直視するのが眩しいくらいなのに視線が逸らせない、そんな魅惑の美貌がだんだんと近付いて―… 「…って、は?!ちょっ…!?」 「……む」 触れる直前差し込んだ掌に彼の唇が当たる。 怪訝そうに眉を潜める顔をそのまま引きはがすように押し退けた。 「あ、あ、あんた今何しようと…っ?!」 「?…何って、それは…………」 ボッ!! 音に表すと正にそんな感じ。 顔を真っ赤にした青年は直ぐさまその手を放し、跳びずさるように後退した。 「っ…な、何でもない…!!」 そう言って口元に手の甲を押し当て、赤い顔を隠すように俯く。 しかし隠れていない耳が異常な程に真っ赤で余計に意識してしまう。 「……っ」 そんな反応をされるとこちらの方まで恥ずかしくなる。 真っ赤に染まる二人の間に、何とも言えない沈黙の一時が流れた。 [前][次] [戻る] |