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創造の魔術師
アリス
 さて……ひとまず焔が言った通り、新聞の切り抜きを捜してみるか。

 俺は焔が言っていた通り、左側のある本棚の裏へと足を運んだ。裏は調度照明の影になっていて、辺りは薄暗く、連なる本の背表紙は古ぼけていてよく読めない。
 とりあえず焔の事故があった日の記事を見つけ…………って、あれ……そういえば、焔の事故があった日はいつなんだ?
 昨日のことを思い出してみるが、焔が事故の日付を言った記憶がない……それどころか、事故が起きた場所すら俺は知らない。いまさら、本人に聞くってのも悪い話しだよな……。
 ――仕方ない、とりあえず十年前くらい前に起きた火災関連の記事でも探すか……。



…………




 くそ、全然わからねぇ……。
 十年前くらいの文献から、国内外の火災に纏わる記事を調べていたが、どれもこれも大きな火災などしか扱っておらず、日々のニュース速報に出ているような火災などは情報が殺到していて分かりづらい上に、掲載件数が多くて、とてもこの時間に間に合うようなものじゃなかった。
 俺は読んでいた資料を本棚へと戻し、腕を組む。やっぱり本人に聞いた方が良かったか……。


 ――とんっ!


「ん?」
「……邪魔なんやけど」


 棚の本を見て耽ていると、本で小突かれた感触が脇腹に響き、続いて独特のイントネーションで左隣りからそう囁かれた。
 振り返ってみると、そこに居たのは、今朝職員室前でぶつかった金髪ポニテの少女だった。
 少女はその小さな両腕に、先ほど俺が読んでいた物と同型のバインダーを三つ、重そうに抱き抱えている。


「そんなとこにおると、ウチの読んだ記事を返すことができんねん。ジブンさっさと読むもん探すか、はやくそこどきぃ……」

 少女は小声で俺を急かし、抗議の音を上げると、今度はその体を使って軽い体当たりをしてきた。


「ど、どけっていわれても……ひとまずソレ俺が持ってあげようか?」
「あんなぁ、子供扱いすんなボケ。えぇからはよそこどきぃ! どかんと今度は魔術でド突くぞコラァ!」
「わ、わかった……」
「わかったならはよぅどけ……」


 鬼の形相をした少女は、焔とはまた違った殺気を放ちながら俺を押し退け、おぼつかない足取りで近くの棚へバインダーを収納し始めた。またその姿が危なっかしくて、収納するときにいちいちつま先立ちになって、あーとか、うーとか必死にもがいては、ポニテと一緒に小さい体がふらふら〜、ゆらゆら〜と揺れるもんだから、俺は結局、彼女が全てのバインダーを仕舞い終えるまでただじぃーっと見守ってしまっていた。


「おぉー……」


 そして何故か歓喜の声を漏らしていた。


「ん〜? なにさっきらジロジロと見とんねん。あ、もしかしてウチの美形にでも見とれとるんかぁ? ま、ジブン高校生やもんなぁー、思春期真っ只中やから仕方ないとは言え、そういう視線は嫌われるでぇ?」
「いや、誰がそんな目で見るかよ……」


 ……ちっこいのは恋愛対象外だ。
 出かかった言葉を喉元でぐっと堪え、そのまま飲み込む。


「ふぅ……それより、今朝は大丈夫だったか? その……」
「アリスや、今朝は名前言うような状況や無かったからな、以後覚えとき。それにあんなんどうってことないで、心配しなくても大丈夫や」


 アリスははにかみながら答えると、今度は不思議そうに俺を見上げた。


「でも、なんでこんなところにいるん? ここはジブンらみたいな年齢の子が好むものなんてないで?」
「いや、調べ物をしてて……」
「なんや、言うてみぃ。図書室にある文献ならだいたいのことしっとるで」
「え……じゃあ、炎上焔って知ってるか? 三ツ星13組の……」
「っ……知ってるで、有名やからな」
「……?」


 今、アリスが一瞬顔を歪めたような気がするが……気のせいだろうか?


「じゃあ、事件のこともわかるか?」
「勿論……その記事なら、確かこの棚の一番上や」
「一番上って……天井近くか? でもどうやって取って来るんだよ?」
「あのなぁ、何のための魔術やねん。こんなもんサッと取ったるわぁ。……レベル1"ウインド"」


 アリスは苦笑しながら棚を見上げると、自身の上着に付いていた胸ポケットから魔札を取り出して、詠唱しながら宙に投げ飛ばす。すると、どっと突風が吹き上げ、一番上にあるバインダーの列を揺らし、一冊だけフワフワと彼女の手元へ降りてきた。

「この記事やね、イギリスで起きた豪邸火災……表向きには不審火として片付いているけど、本当は――」
「ちょっと、か……そ、創魔くんそこにいるの?」
「――!!」
「ん、焔か?」


 本棚越しに焔の声が聞こえる。
 それを聞いたアリスは、慌ててバインダーを俺の胸に押し付けてきた。


「あ、あぁウチ急用があるんやった。スマンけど先急ぐわ!」
「え、ちょっと……」
「ほな、また――」


 アリスはただそれだけを残して、本棚の陰へと消え入ってしまった。

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あきゅろす。
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