一ノ章 嘆きの鴉と謳う魔女
1
「なんか文句あるか、盧杞(ロキ)」
伏せた顔を起き上がらせることなく返事をする沙刀。
「・・・あれ?なんでわかったの?」
その言葉に、今度こそ沙刀は、身体を起こし声の主を睨みつける。
「当たり前だろうが。機嫌の悪りぃ俺に話しかけてくるなんてクラスじゃ限られてるし、第一お前と何年の付き合いだと思ってんだ」
「あぁ、そっか。8年間の付き合いの幼馴染が声かけてんのに気づかないのは流石にないか。」
あははっと、洗剤のCMが似合うほどの爽やかな笑顔で、沙刀に笑いかける彼、風見盧杞(カザミロキ)は、正真正銘、沙刀の幼馴染であった。
盧杞の、染めた胡桃色の髪の毛は、後ろ姿をみれば、一見チャラい学校中退前の生徒に見える。しかし、人懐っこい性格もあってか、正面をみれば、その顔は、爽やかなスポーツマンというばかりのイケメンで、脱色をした不良という雰囲気は一ミリも感じられない。
「で?我等がクラスの人気者沙刀君は、何が気に入らないのかな?」
「・・・人気者って・・、お前に言われたくないんだけど」
沙刀も、一応クラスの中心的人物ではあるが、盧杞ほどではない。盧杞こそがクラスの中心にいつも存在している。
沙刀は盧杞の、嫌味ではなく素の言葉に、は〜っと溜息を吐いた
「別にただ、進路どうしようかと悩んでただけだ」
「進路?」
真剣な表情をし盧杞に問いかける沙刀に、先ほどまではふざけた表示をしていた盧杞も、気持ちを切り替えるかの様に瞬きをした後、真剣な表情になった。
「いいや。俺もまだ悩んでる。でも、そうだよね・・・・警察とかに就職した方が、一刻も早くあの時の【犯人】が見つかるかもしれない・・・だけど」
盧杞は、イキナリ言葉を止め、そして窓の向こうを見つめた。
「・・・だけど、その仲間の【バケモノ共】を一人でも多く殺す為には、キャリアがいる。そのためには進学が必要で、俺たちはまた、何も行動することのできない無力な日々が続く」
「・・・無力」
「・・・そう無力。俺たちは、家族を、大事な全てを、【魔能力者】という名のバケモノ共に奪われた。・・・なのに、あんなに復讐を誓ったのに、俺たちは未だに何もできていない。・・・それも、8年間、8年間ずっとだ。」
「・・・ああ、そうだな」
8年前の夏、俺たちはかけがえのない、大切な家族を失った。
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