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一ノ章 嘆きの鴉と謳う魔女
3


ムギと沙刀が対話をしていた、その時間・・・。


風見盧杞は、ぼんやりと通学路の川沿いを歩いていた。

青とオレンジ色の、なんともいえないコントラストが凄く綺麗で、道ゆく人々はその光景に感嘆していたのだが盧杞自身はそんなことにも構わずただトボトボと歩いていた。


今日の沙刀との出来事を考えながら。





今日、屋上での事件を揉めた後、2限の授業が終わっても、昼休みになっても、沙刀は教室には帰ることはなかった。その、理由は、盧杞が怒鳴ったことか、あるいは何も考えずただ眠りふけっていたのか、盧杞にはよく解らなかった。


しかし、自分から沙刀のもとに再び戻る勇気もなく、放課後になっても帰ってこない沙刀を先に帰るというメールだけを送って、一人で逃げるように、教室を後にした。


携帯をカチカチと弄りながら自分とすれ違う、他校の高校生をボーっと見つめ、ふと盧杞は携帯をズボンのポケットから取り出してみた。

沙刀からの連絡がないか確認してみるためだ。しかし、結果はメール履歴も、着信履歴もゼロ。

盧杞はそのことに溜息をはく。

溜息が不安から出たのか、それとも安心から出たのかは自分自身もわからなかった。


沙刀が本当は、魔能力者を滅ぼそうなんて考えていないことを盧杞は最初からわかっていた。

自分ほど、復讐に燃えていないことも。

魔能力者を皆殺しにしようとも思っていないことも。

長年を共にしていたからこそわかる。沙刀は魔能力者自体は別にどうでも良いのだ。本当に恨んでいるのは、あの日の犯人。探しているのは身近な復讐相手。


そんなことはわかっていた。

だからこそ、時期外れの転校生を必要以上に警戒し、少しでも何か手がかりを、非日常を起こしたがっている沙刀の言葉を正常だとはどうしても思えなかった。


きっと彼は一刻も早く犯人を見つけて、復讐を果たし、魔能力者の国滅ぼしなんて大層な役目から逃げだしたいのだ。

だからこそ、彼は犯人を作り出そうと必死になっている。



自分はけして許しはしない。あの化け物の存在そのものを・・・。例え幾億の年月を重ねたとしても、この大地から奴らを全て滅ぼしてやる。



そして気がつけば盧杞は既に自宅のマンションの下にいた。嫌々ながらも、エレベーターに乗り、自宅を目指す。



ぎこちない、母親の笑顔で出迎えられることを、想像しながら。







風見盧杞はこの世の誰よりも音無沙刀を大切だと思っている。

だけど、それと同時に劣等感の様な醜い感情を抱くこともあった。

沙刀は、馬鹿みたいに真っ直ぐで、自分を偽らない奴だ。いつも日の光を浴びた存在。


沙刀は、盧杞のことをクラスの人気者だと思っているが、それは違う。

盧杞自身が自分を偽り、何をしなくても常に光を浴びた存在の沙刀に似合うように努力をしてきた。

光が強すぎれば闇は消える。だから・・・そのために、自分も偽りの光になった。それだけだ。






だけど、光は知らなかった。


強すぎる光は、周りを焦がし、黒く染めてしまうということを。




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あきゅろす。
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