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一ノ章 嘆きの鴉と謳う魔女
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AM 10:12

盧杞は、授業に出るといい視聴覚室から出て行ったが、授業を受ける気にならなかった沙刀はそのまま、視聴覚室に残っていた。

外からは、体育の授業の掛け声が聞こえる。

視聴覚室には内側から鍵をかけているので、一般の生徒が入ってくる心配は無いし、教員だって、こんな使われていない、教室を点検するほど暇ではない。

そんな、人が入ってくる心配のまったくない場所だからこそ、沙刀は、人目を気にすることなく、堂々とカーペットの敷かれた床に寝転がっていた。

カーペットは所々小さな汚れがあったが、他の教室のカーペットよりは、ずいぶん綺麗な方で、気持ち的に疲れていた沙刀は、汚ないなんて事は気にせずに寝転がったのだ。

「ふぅ・・・」

沙刀は、ボーっとしながら盧杞と別れる直前の会話を思い出していた。

別れる直前、盧杞は沙刀にハッキリ、と「俺は目の前の事よりも、先の目標を達成したい」と、言った。

つまり盧杞は沙刀に、目の前の転校生を疑うことよりも、学生として勉学に励んで、出世の道を歩み、魔人の国を滅ぼすと言ったのだ。

(・・・と、いうか、それだけが本心じゃねぇよ・・・どう見ても)

盧杞は、沙刀に本心を話したかの様に振舞っていた。だけど、沙刀の目から見た盧杞は、明らかにもっと、言いたい事があるかの様に見えた。

盧杞は、カタチはどうであれ、家族を皆殺しにされた沙刀よりも、魔能力者を憎んでいる様に感じる。

それは、沙刀の目から見ても確かだった。

だけど、それは本当に妹の百合香が殺されたことからの憎しみなのだろうか?

沙刀にはそれがよくわからなかった。

現在沙刀は、あの事件で殺された両親の貯金や保険から、親族に頼ることなく一人で生活しているため、盧杞の家には、何かとお世話になることも多い。
盧杞のおばさんも、おじさんも、血の繋がっていない沙刀にも、親切にしてくれる、とても優しい人達だ。盧杞にも、キチンとした態度で接していると思う。

・・・・だけど、沙刀はたまに、盧杞の家族の関係は、まるで他人行儀のようだと思うことがある。

昔はそんなことはなかったのだが、あの事件が・・・、百合香が亡くなってからだろうか?ショックのあまりか、盧杞の両親は、生きている盧杞よりも、亡くなった百合香のことばかりを思っている様な気がする。

もしかしたら盧杞は、百合香が殺されたから魔能力者を憎んでいるのではなく、家庭を壊したから魔能力者が憎いのかもしれない。だから・・・、一人の犯人を追うよりも、皆殺しの道を選びたいと思ったのかもしれない。

そして・・・学校でだけは、何もかもを忘れて、普通の高校生でいたいのかもしれない。


(だけど・・・俺は・・・)

沙刀は、カーペットに寝転がったまま目を閉じる。

俺は例え・・・、一人でも、目の前の化け物を始末していきたい。

沙刀は自分自身の直感を信じている。

だから・・・例え盧杞が、俺の直感を信じなくても、あの転校生の正体を突き止めようと思わなくても・・・、

(例え一人でも俺は、アイツの正体を突き止めてみせる)


そう己の内の中に、覚悟を決めながら沙刀はウトウトと眠りにつこうとした。



そして眠る直前

【転校生について、椎葉魔虎も何か知っている】

屋上の会話の途中で自分が思ったことを思い出したのだが、次に目が覚めた時、沙刀はこの事をすっかりと忘れてしまうこととなる。



※※

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