一ノ章 嘆きの鴉と謳う魔女
4
だからこの時、沙刀は知らなかった。
椎葉が、屋上から退出しようとしている二人を、まるで憐れむかの様に、ジッと見つめていたことも・・・。
そして・・・、
一通の手がかり(電話)が、椎葉のもとへかかってきたということも・・・。
そして
プルルッ!プルルルッ
椎葉の携帯が、今時にしては、あり得ない普通の着信音で鳴り響く。
「もしもし・・・」
椎葉はその電話をうっとおしそうに出た。
「・・・あぁ、お前か・・・」
なんとなく、椎葉は着信の相手が誰なのか、解っていたのだろう。驚くわけでもなく、ただ淡々と電話の受け答えを行っているようだった。
「、・・・・あぁ、解ってるさ・・・。」
椎葉は、相手が言う前に、言葉を発した。
「お前に言われなくても、俺は俺の出来る事をやる・・・、それが・・・」
「俺がアイツに・・・彼等に出来る唯一の事だから・・・」
「だから・・・、お前も、裏切るなよ・・・・、もし、裏切れば・・・」
「 真っ先にお前を殺してやるからな・・・」
プッ!ーツーッ・・・ッ
そうして椎葉は、相手が会話を続けようとしているにもかかわらず、通話を無理矢理切った。
そして、椎葉はその場で軽く溜息を履き、空を見上げながら、彼は、2人の友人の事を思った。
音無沙刀と風見盧杞・・・。
彼らには、幸せになって欲しいと思う。真実を知らないでいて欲しいと思う・・・。
だけど、この気持ちはきっと、彼等のことを友人だと思う気持ちとは別のものだ。
椎葉には、確かに彼等の幸せを願うのは、彼等が友人だからという理由もある。
だけど、椎葉は、彼等を【アイツ】と重ねていた。
彼等の関係は・・・、まるで【アイツ】を思い出すから。
【アイツ】は、馬鹿だ・・・。
だから【アイツ】は、大切なものを無くしてしまった。
幸せなままで、いれば良かったのだ。何も知らなければ良かったのだ。
だけど、時はもう戻らない。だから、椎葉はきっと、彼等に、代わりに【アイツ】に出来なかった精一杯のことをしてやりたいのだ。
だって、彼らも、もし、本当のことを、真実を知ってしまえば・・・彼らは・・・。
しかし椎葉はそこで考えることをやめた。
考えても仕方が無い、と思ったからだ。どうせ・・・
「どうせ俺に出来ることはただ、彼らを守ることだけだ・・・・、だから、そのために・・・・・俺は・・・」
だけど、そこで、言葉は途絶えた。もう自分自身の中には確かな覚悟があった筈だ。
誰を敵に回しても、やり遂げなければならない。
だけど、その言葉を口に出すことは、どうしても出来なかった。
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