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一ノ章 嘆きの鴉と謳う魔女
3


何故もっと早く気がつかなかったのだろう?


沙刀は自分の直感を信じるのなら、椎葉が朝、転校生を殴り飛ばしたのは、ただ単に外見のことを悪く言ったからではないのではないかということだ。・・・いや、確かに椎葉は、見た目について触れられると、キレることが多いがソレはあくまでも、しつこく触れられるとキレるのだ。普段は、軽く身長に触れられるぐらいでは、殴ることはない。精々睨みつけられるぐらいだ。

だから、椎葉は、もしかしたら、あの時転校生に対し何かを感じたのではないかという推測に行き着いた。


「・・・盧杞は少しだまってろ、なぁ、椎葉・・・、お前はアイツをどう思った。俺はどうしても、それが知りたいんだ。」

スっと沙刀はその場から立ち上がり、沙刀と同じ目線で、いや性格には沙刀の方が身長は高いのだが、とにかく対等の目線になろうとした。


その光景を見て、盧杞はますますオロオロとしていたが、そんなことは、沙刀にとってどうでもいいことだったのかもしれない。



沙刀はこの時、本当は、椎葉に、いや、自分ではない他の誰かに、沙刀の予感を認めてほしかったのだろう。



「どうって・・・、しいて言えば、気に入らない奴だと、思った。チャラチャラして」

違う・・そうじゃない。

そう沙刀は思ったが、そんなことを知る由も無い椎葉は言葉を続ける。


「チャラチャラとして、あの人を舐めきった様な態度がかなり感につく。」

「それだけ?」



「ああ。残念だが、それだけだ。それ以外にアイツからは、・・・特に何も感じない。だから、アイツの目が人殺しの様な冷え切った目をしてる様には・・・俺には見えない」


真剣な目をした沙刀に、椎葉も真剣に言い返す。


だが・・・沙刀は、

(ああ、嘘だな)



と思った。

椎葉をよく知らない者から見れば真剣に話をしている椎葉はまるで、本当の気持ちを言っているかの様に思える。


だが、椎葉の今の反応は、無表情ながらも少し動揺しているのが解った。しかし、何故椎葉がこの時、動揺したのかは沙刀も・・・わからなかったが。

「沙刀・・・悪いがこの話は・・・」

「・・・アイツは魔能力者じゃないのか」

沙刀は、この時、己が心の内に本当に感じていたことを疑心暗鬼になりながらも、小声で自分自身に問いかけるかの様に声をあげた。

その瞬間、自分でも、何故、あの転校生に執着しているのかがわかってしまった。疑問感は今まで初めて己の心を出し切ったことでハッキリとしたのだ。


沙刀は初めてあの転校生、熊沢ムギに会った時、あの、あの日に出会った、魔能力者の男と同じ、人とは違う何かを感じた。

だから、沙刀は椎葉に、少しだけ普通の人とは違う気がする椎葉に、転校生は、魔能力者だって、認めて欲しかったのだ。

「魔能力者だ、そうだろ?!」

沙刀は、自分の考えに確信を持ったかの様に、椎葉に向かって叫ぶように言葉を発する。


その時、沙刀は何故かこの言葉を「そうだ」と認めてくれるかのような、妙な確信があった。根拠なんてものは、ない。ただ、椎葉なら認めてくれるのではないかと・・・。





だが、椎葉の顔を、
椎葉の顔を見た瞬間

沙刀は無意識に自分の奥歯をギリっと噛み締めた。

沙刀の問いに対する椎葉の答えは椎葉が答えなくても、沙刀ははじめから解っていてしまったからだ。

椎葉はあの転校生のことを魔能力者だと言わない。


だけど、最初から問いの答えはわかっているといっても、心の部分で、どうしても聞きたくなくて、沙刀はただ、祈る様に、そして恨みを込めるかの様に椎葉を睨みつけた。

・・・そして、椎葉がゆっくりと口を開こうとしたその時


「ッ沙刀!!!」

ついに盧杞が、沙刀を止めに入った。

盧杞にとって、沙刀は幼馴染で、親友だが、椎葉だって大切な友人なのだ。

これ以上沙刀が椎葉に対し、無理強いをさせているかの様な光景を黙って見ていられなかったのだ。

「・・・ごめん椎葉ッ、沙刀の奴ちょっと気がたっててるんだ、だから、ちょっと頭が正常に働いてないというか・・・とにかくごめん!ほら!沙刀!!行くよ?!」


「ちょっ!?オイ?!!何処へ行く気だ!!まだ話はッ?!」





沙刀はかなり抵抗したのだが、馬鹿力の盧杞に無理矢理引っ張られ屋上を退出することとなった。




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