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一ノ章 嘆きの鴉と謳う魔女
5
"はじめまして"
そう
先に声を掛けたのは沙刀だった。
嫌悪感を表に出すことはせず、沙刀はにこやかに微笑む

先に声をかけなければ熊沢に恐れている様な気がしたからだ。

そして、熊沢ムギも「ヨロシク」と挨拶をかえした。

だけど

それだけだ。

お互いにそれ以上は何も話さなかった。

まずは、盧杞に話そう・・・、沙刀はそう思ったからだ。







※※



「・・・絶対あやしぃだろ、アイツ」

ホームルームが終わり次第、沙刀は盧杞を屋上に引っ張り出した。そして、もう一限目のチャイムは鳴り終わってしまったわけなのだが、沙刀と盧杞はそんなことに構うことなく、フェンスにもたれ掛かり話し込んでいた。
何故ならもともと二人には、優等生の資質は皆無だったからだ。


「・・・まぁ、季節外れの転校生ではあるけど、・・・さらに椎葉に殴られてるけどさ・・・でも、そこまで疑わしい?瞳が?」

沙刀は熊沢ムギのことを【怪しい】といったが、しかし、盧杞には、沙刀の言った瞳が普通に生きてきた人間ではない。という意味が良く分からなかった。

「だから、あの事件の"男"と同じような人殺しの目ぇしてんだって!!」
「・・・だって俺、あの男のこと、殆ど覚えてないし、・・・・沙刀だってそうだろ?」
「・・・・う。」

確かに、沙刀もあの日の男のことを覚えているわけではなかった。

真っ赤な炎と共に現れた謎の男

黒いフードを被っていたような気がした
目が狂気にそまっていたような気がした
卑しい笑い声をあげていたような気がした

男に対する情報自体が全部曖昧だ。

ただハッキリしているのは、警察が言っていた魔能力者だったということ。
だいたいあの日の事件の記憶全部が断片的で、不完全だ。

それなのに、瞳があの男と同じだと言うのは変だと、そう言いたいのだろう、盧杞は。

それは、そうだろう。そんなのは当たり前のことだ、と沙刀も頭では理解している。だけど、確かに、あの時感じた、熊沢ムギに対する感情は、紛れもなく本物だと沙刀は感じていた。

沙刀達が突き止めようとしている真実とは無関係なのかもしれない。


だけど・・・、
アイツは・・・、

アイツは・・・・、


ガチャン


「「ッ?」」


沙刀が心の中で、答えを探し出そうとしていた、その時、突然屋上に繋がるドアの扉が開いた。

別にやましいことをしていた訳ではなかったが内緒事を聞かれたときの様に、二人は緊張しながら、その訪問者を見つめた。

すると現れたのは、背の低い男だった。少し固そうな髪の毛をざんばらに切り揃えた、黒髪黒目の中世的な顔立ちをした少年の様な、生徒。

沙刀と盧杞は、その生徒には、かなり見覚えがあった。

何故なら、今日は顔は見かけていないが、朝から話題にもあがっていた、転校生をイキナリ殴り倒したという・・・


「「・・・・椎葉」」


もう一人の、沙刀達のクラスの、クラス委員だったからだ。

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