一ノ章 嘆きの鴉と謳う魔女
4
クラスの雰囲気をさっした担任の松下は手をパンッと叩き
「・・・取り合えず自己紹介はこれくらいにして松下は席につくけ」
と話題を切り替えるかのようにいった。
「センセ?・・・俺どこの席ですか?」
「・・・あぁすまん。熊沢は、あの端から二番めの席だ。丁度、あの茶髪の・・・あー・・音無。悪いが手を上げてくれ」
「・・・・え」
松下に手を挙げろと、そう言われた瞬間
げっ・・・と沙刀は思った。
丁度沙刀の右となりには空席が一つある。しかもそこには昨日まで机や椅子は無かったのだ。
「・・・音無?」
「あぁ。はいはい」
沙刀は観念して、手をあげる。
担任が自分の席からは聞こえないくらいの声で、アイツの席の隣の場所だと言っているのがわかった。
「・・・・はぁ」
沙刀はため息をつく。面倒ごとはゴメンだったのに。すでに椎葉と揉めごとを起こし頬を腫らしている転校生とは出来れば関わりを持ちたくなかった。
しかもあのイケメン顔じゃ、絶対ホームルームの後、他のクラスの奴も、狙いにくるな・・・
自分の席の周りが女子のキャイキャイ声で煩くなるのを想像して、無性に転校生がウザく感じた。
そうして、沙刀は教卓の前にいる熊沢を八つ当たり半分で睨みつけようと、いままで伏せてい
た顔をあげた。
転校生と丁度いいタイミングで瞳があった。
しかしその瞬間
ゾクッ
何故か
目の奥が変に暑くなった。
※※※
最初は転校生と目があってしまったコトに驚いたのだと思った。
しかし、それは違う。
長い間・・・、いや、他人からみれば僅か数秒の出来事だっただろう。
その僅かだが、長い時間の中で、初めて会って、しかも、未だ会話も行っていない転校生に、何故かだんだんと嫌悪感を抱いていたからだ。
その嫌悪感は、なんとなく嫌いだ、と思うような表面状の感情ではなく、もっと深い深層意識の中で、本能が嫌悪しているかの様な感覚。
沙刀の背筋が、ゾッと寒気が突き抜ける。
そして、始めたは嫌悪感だったものが、そのことに気づくと同時に、だんだんと、興味、不快、恐怖、憎悪、そして何故かほんの僅かの歓喜・・・といった様々な得体の知らない感情が沙刀の中を渦巻いた。
そして、沙刀はその瞬間本能が理解する。
あぁ・・・そういうことか、と沙刀は思った。
コイツと関わってはいけないと。
関わればきっと戻れなくなるということを。
そして、理性は理解した。
コイツと関わらなければならないということを。
何故ならコイツは、
こいつの瞳は・・・、
どうみても真っ当に生きてきた人間ではない
そう思ったからだ。
何故だかはわからないが、沙刀には転校生の瞳が、その黄金の瞳の奥には真っ暗な深淵が広がっている気がしたのだ。
まるで、人を殺したことのある様な真っ暗の瞳
熊沢がゆっくりと席まで歩いてくる。だけど沙刀は目を離さない。熊沢もそのまま見つめ返す。
互いの距離がだんだんと近づき
そして
「はじめまして」
そう声を掛けた。
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