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一ノ章 嘆きの鴉と謳う魔女
2

※※※

「で?結局、なんで遅刻したんだよ?」

沙刀達は会話をとりあえず原点に戻した。

冗談ではなく、あのままいけば、マジで盧杞と喧嘩になっていた。沙刀も盧杞も、いい意味でも、悪い意味でも、負けず嫌いなのだ。キッカケはともかく、下らないコトで喧嘩をしても、どちらもなかなか折れない。


「いや、遅刻というか、先生に、転校生のことを頼まれてしまって。」

「「・・・・・転校生」」

二人は顔を一瞬ポカンとさせた後、パッと佐久間を見つめる。

「初耳なんだが」

「なにそれ?きいてないよ?」

「このことは、学級委員の僕と、椎葉以外知りませんよ?担任の先生からは、当日まで内緒にとのことでしたし」


「・・・そういうことか」

佐久間も、椎葉も、他の生徒にこういった情報を話すタイプではない。

佐久間は、先生に言われたことは忠実に守る奴だし、椎葉は・・・、守るとかどうこうでは無く、まず、周りの人間自体がどうでもいい奴だ。

だから、クラスで【転校生】という噂すらも聞かなかったのだろう。

納得している沙刀の横で盧杞は、あれ?と言葉に出しながら、疑問の表情をうかべる。

「じゃーもしかして、椎葉は、まだ転校生か先生のとこにいんの?」

盧杞の疑問の意味を沙刀も理解する。先ほどの話から、佐久間と椎葉は、先生の所にいっていたのだ。しかし、教室に帰って来たのは、佐久間だけというワケで・・・。


「いえ・・・それが、椎葉は・・・」

丁度、佐久間が言い淀んでいた、その時、教室のスピーカーから、本鈴のチャイムがなる。


佐久間はパッとチャイムを見つめ


「すみません。この話はまた、後でお話します・・・や、多分僕の口から言わなくてもわかると思うんですけど・・・では」


「あ」

そして、沙刀と盧杞が声をかける間もなく、沙刀の席とは随分離れた自分の席に向かってしまった。


「なんなんだよ結局・・・わかるってどういう意味だと思う?」

「ちょ、そこは俺にフらないでよ。俺だってわからないんだから」

「悪りぃ、・・・って、やべ!担任来たぞ!」

「わッ!?本当だっ!?」

ガタンッ

急いで席に着く盧杞。

前のドアから担任の松下が入ってくる。


担任の松下一郎は、一言で言えばただの中年男だ。



「・・・全員席についてるな?・・・椎葉はやっぱり来てないか・・・はぁ」


何故か椎葉が教室にきていないことに溜息を吐く担任の松下。

クラスの全員はその溜息にハテナマークを浮かべるが、その理由はすぐにわかることとなった。


「・・・まぁいい・・・。お前ら喜べ。・・・転校生が来たぞ」


「「「・・・・」」」



「「「-----本気でェッ!?」」」


一呼吸をおき、クラス全員の叫び声が響く。


いや、先ほどそのことについて話をした佐久間と、話を聞いた沙刀と盧杞は叫ばなかったが。


「ああ、本当だ。だから、静かにしろ。・・・・熊沢・・・入ってこい」


松下が声をあげた瞬間、ドアが開いた。

そして、クラスの全員がその瞬間、息を無意識に止めてしまった。


AM9:00
・・・残り0秒


その瞬間・・・この転校生と俺たちが、出会った瞬間。

日常は


日常ではなくなってしまった。

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