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『ジャッジメント・デイ』:リナ様から戴きました切ないシンルク小説第二弾です!
初めて相手の姿を目にした時から、きっと捕われていた。
その瞳は硝子玉みたいに透き通り、だけど希望を失っている様に見えた。
矛盾してると言われようとも、そうなのだ。
俺を捕らえた瞳は、何も知らないけど何もかも見抜いている無垢な色で。
そして震えが走る程に残酷だった。
無垢、残酷。
そのどちらも、美しい。
目が離せないまま、呼吸を奪われたみたいに、俺は立ち尽くしていた。
〜ジャッジメント・デイ〜
一歩ずつ、進んで来たつもりだ自分は。
誰が今の自分を予想できただろう。
本当に色々あった。
沢山の人々との出逢いに、許されない罪。
そう、決して許されることのない。
そして、自分が生まれたという事実。
止まらず進んだ道には、たまに花が咲いていたりしたけれど、振り返りたくなくてただ前を見て来た。
明確な理由は自分でも判らない。
怖かった。
例えばこれまでの道のりで、判断を迫られ俺が選んだ道。
どっちの道が正しかったなんて判らないけど、俺は俺の意志で歩みを進めたのだから、自分が取った道を信じたい。
その先で得るものがあるとして、そうしたら失うものがあるかもしれない、いやきっとある。
それは仕方ない。
だけど立ち止まったらきっと、不安になる。
もし反対の道を選択していたら、失うものも少なかったかも、とか、傷つかずに済んだかも、とか。
きっとそれを考え始めたら俺は動けなくなる。
そして、道に咲くその花に見とれている間に、もしかしたら扉が閉まってしまうかもしれない、そんな気がしたから。
雨が降ってしまいそうな、予感がしたから。
傘は、持ってない。
力任せに折って、それでそのままぽいっと放り投げちゃったから。
濡れたくないに決まっている、誰だってそうだと思う。
傘をさせば、雨が自分を避けてくれるというのか?
そんな事あるはずない。
傘をさしていれば、余計に強く、自分だけにその雨が向けて降っていると錯覚してしまう。
だから、捨てた。
いらないんだ、守りたいものがないわけじゃない。寧ろ手放したくないものばかりで困る。
空気とか、空とか、風とか、大地とか。
それだけだけど。
守りたい『誰か』がいたら傘をさしたかもしれない。
余計な事を考えちゃ駄目だ。
俺は何も考えちゃいけないんだ。
沢山の人を犠牲した。
だから出来る事から始める。
けど消える事はない罪の前でこんな不完全でちっぽけな俺に、何が出来る?
何も出来ないかもしれないけど。
やるしかないんだ。
辿り着くしかない。
そんな事、わかっている。
一人で生きて来た。
自分だけの力で生きて来たわけじゃない、本物じゃない俺を育ててくれた両親とか、行動を共にしている人もいる、こんな自分でも。
でも、一人で生きて来たんだ、心は。
寂しくてたまらなくても。
前みたいに弱さを晒してしまったら俺はもう進めない。
きっと次々に弱い自分が溢れ出して、きっと誰かをうんざりさせてしまう。
なんで前はあんな生き方が出来ていたのか自分でも不思議な位。
だから出さない事にした。
いいんだこれで。
一人の時間は嫌いじゃない。
けれど、なんだかどうしようもなくなったり、不安で堪らなくなる。
抱きしめられたくなったり、髪を撫でられたかったり、縋りたくなる。
そんな時は誰にだってあるだろう?
やっぱり雨が降り出した。
予感が、的中。
嫌な予感程よく当たるというのに、傘を投げ出した俺は大馬鹿ものだな。
誰かこんな俺の胸倉を掴んで殴り倒してくれないかな。
そして地面に張り付いた俺を踏み付けて、大笑いしてくれないかな。
そうしたら、もうこんな馬鹿な考えとさよならできるのに。
だけどそんな事アッシュにバレたらまた、「出来損ないの屑が!!」って怒られちまうな。
こんな俺を助けてくれる、そんな奴いないんだ、人を頼るな、自分で解決するしかない。
救われるわけがない、いや救われる資格なんて俺にはないのかな?
わかっていた事だろうそんな事は。
濡れた髪が、額に、頬にくっついて気持ち悪くて仕方がない。
それでも拭う気にはなれなかった。
いっそこの雨に溺れてしまいたい。
激しく打ち付けられて、いつの間にか一粒の雫が激しい波になって押し寄せて、俺を飲み込んでくれたら。
だけどそうしたら今まで歩いて来た自分を、自分が選んだ道を、否定する事になってしまう。
沢山の人を裏切る事になる。
きっと惨めに違いない。
波に飲まれながらも、あぁこれで解放される、と、安心した顔をしてしまうだろう自分は。
あと少しだ、あと少し我慢すればきっとたどり着く。
そうだ、あそこに、あいつさえいなければ。
傘を捨てた事を後悔なんてしなかったのに。
雨に濡れた緑色の髪が、綺麗だった。
雨に打たれながら目を閉じているこいつは。
俺に、幸せを与える?
それとも、絶望を渡す?
別にそのどちら以外でもないかもしれないのに。
開かれた瞳は、一瞬にして俺を魅了する。
初めて相手の姿を目にした時から、捕われていたんだきっと。
その瞳は硝子玉のみたいに透き通り、だけど希望を失っている様に見えた。
矛盾してると言われようとも。
俺を捕らえたその瞳は、何も知らない無垢な色で。
でも、やっぱり全部。
見抜いていた。
だってその瞳は震えが走る程に残酷だったから。
無垢、残酷。
そのどちらも、美しい。
目が離せないまま、呼吸を奪われた。
でも…このまま立ち尽くしているわけにはいかない。
まずい、扉が閉まってしまう、予感がまた的中してしまう。
早く行かないと、でも。
抱きしめられたい。
声を聞きたい。
全てを捨てる事になるかもしれない。
だけど。
俺は、あの薄くて形の整った唇から、自分の名前がこぼれる音を聞きたい。
一人なんて、もう、沢山だ。
泣きたくなったら、声を上げて泣きたい。
花が咲いていれば、振
り返りたい。
雨が降ったら当たり前の様に、傘をさしたい。
もう、傷だらけじゃないか、自分の足は。
たどり着けるの、か?
この足で。
いや、たどり着かなくてどうする。
後戻りなんか出来るならとっくにしていたはずだろう。
なんで、そこにお前がいる。
別の道を選んでいたら出逢わずにすんだ?
早く、早くしないと。
予感が的中してしまう。
なのに、頭が、心がついていかない。
助けてほしい、助けて。
あぁ やっぱり 誰か。
俺を殴り倒して。
いや、こいつが良い、殴り倒してくれ今すぐ。
扉が閉まる、その前に。
判断の時、無意識だったかもしれない。
違う。決まっていた。
だって、俺は…。
『シンクっ…!!』
もう、扉が閉まっても構わない。
シンクさえ、いてくれたら。
それでいい。
他には、何も、いらない。
End
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