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連載
あの自由な空に似た〜4〜

何故なんだろう?身請けが決まった時に思い出したのは、たった数度しか会ったことの無い、あの人。


――あの自由な空に似た――


痛む頬を冷やしながら、乱菊は自分の部屋で外を見ていた。


何て。綺麗な空。


この窓から外を見ることが出来るのも、あと、一ヶ月。
そう感傷に浸りながら頬を冷やし続ける。
あの後――――涼子に叩かれた後、乱菊は何があったのかよく覚えていない。
ただ、乱菊を叩いた後、まるで自分が叩かれたような顔をし、そして膝から崩れ落ち、泣き続ける涼子をただ呆然と見ていただけだ。
気がついたらこの部屋に戻っており、朝食が運ばれていた。
他の花魁達もそれぞれ部屋に戻ったらしい。さっきまで聞こえていた喧騒も今では全く聞こえてこない。


『腫れ………だいぶ引いたわね………』
乱菊は、こんな事には馴れている。だけど、今回はやはり驚いた。
涼子があそこまで泣きじゃくる理由がわからないからだ。
凛とした、女だと思っていた。
花魁である己に、誇りを持っている女だと思っていた。
これは乱菊の勝手な想像だ。だけど乱菊にはそんな確信があった。
その涼子があそこまで自分を追い詰める――……乱菊に怒り狂う理由がわからなかった。



でも、知ってしまっているような気もした。



―†―

身請けが決まってここ一週間、乱菊に対する涼子の苛めは進化した。
しかし。退化もした。
今までは罵ったり、遠くで悪口を言うだけだったのだが、最近では乱菊の顔を見る度に泣きそうな顔になり、乱菊の顔を殴ろうと手を振り上げるのだ。
その手はいつも花魁達により阻止されるのだが、涼子のその姿はまるで幼子のようであり、乱菊は身が縮まる様な想いがするのだった。

しかし、乱菊の味方は増えた。
涼子は、他の花魁達にも辛く当たり始めたのだ。
慰めようとする花魁を罵り、物を投げ出す涼子から人が離れ、性格の明るい乱菊に人がつくのはほぼ当然の事だった。


乱菊は、フラフラと庭を散歩していた。
一人に、なりたかった。
涼子を見ていたくなかった。
壊れたように啜り泣く涼子の声を聞きたくはなかった。

荒れていく、憔悴しきった顔を。憎しみと哀しみが合い混ぜになった鈍く輝く瞳に、映る何も変わらない美しい自分を。


見たくは、無かった。


その時風が吹き、乱菊の髪を散らした。
髪を纏めていた簪が落ち、茂みへと転がっていく。

「やだ……。待って。」

その時、その簪を拾う手があった。白くゴツゴツしている男の手。
乱菊はその手の持ち主が一瞬で分かった。


「………………日番谷様………。」


輝く白髪に翡翠の瞳。

この人に、私は会いたかった?
(私はこんな感情知らない(知らないし知らなくて良いのよ))




―続く―

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