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連載
お前は俺の待ち人〜2〜
※これは日乱パラレルです。明治時代をイメージ(あくまでもイメージです!)した花魁の出てくる話です。苦手な人はバックプリーズ。ではではOKの方だけどうぞ!


知るか。
   知るか、そんな事。

お前は俺の待ち人〜2〜

俺だって、分かるか。
分かるものか。
何故だかずっと・・・・・・・

鮮やかなあいつが頭から離れない・・・・・・・。

「どうしたのですか?日番谷さん。」
「え、ああ。涼子。」

涼子というのは先日、乱菊の手を赤くなるまで握り締めた娼館のボスの名前だ。
そして、日番谷とはさっき、乱菊と立ち話をした男の名。
本名は、日番谷 冬獅朗。
この街一の金持ちだ。大きな会社を持っていて誰も彼に頭が上がらない。
よく指名されている涼子でさえ『日番谷さん』と呼んでいる。
ほかの花魁達は皆、『日番谷様』と呼んでいる。
それに比べれば涼子ははるかにいい待遇といわれるだろう。
涼子はそれを誇りに思っていた。

「お体でも、悪いのですか?」
「いいや、別に・・・・。」
「今日は何だがボーっとしていますわ。」
「そうか?」
「何だか、だるそうですし・・・・。もしかして奥さんと何かあったんですの?」
「違う。佳子(よしこ)とは何もなかった。」

ああ、そうだ。涼子よりも、佳子よりも、あの女は美しかった。
日番谷は涼子の問いかけに答えながらそんなことを思う。

「じゃあお仕事で何か?」
「いや、極めて良好だが。」

そうだ、あの女は名はなんと言うのだろう。
あの女は他にどんな表情をするのだろう。どんな笑い方をするのだろう。
どんな声を上げて笑うのだろう。
どんな・・・どんな――――――――――。

「日番谷さん?」

はっと、我に返った。
「やっぱりお体が・・・・。」
「いいや、そんな事はない。少し考え事をしていただけだ。それより・・・なぁ・・・。」
「はい、なんでございましょう?」

涼子は、嬉しかった。
やっと、自分に日番谷の気が回ってきたからだ。
だが、それも一瞬。

「金髪の女で背の高い気の強そうな女、知らねぇか?」

涼子は只ひたすらに考えた。
この人は、なんと言ってるのだろう。
涼子には、すぐに分かっていた。
この人が、紛れもなく、自分が、『敵』と見なしている、あの、『松本乱菊』のことを言っていることを。
だけどわからないと思った。でも頭は理解していく。涼子は鮮やかな紅を乗せた唇を噛み締める。
苦い紅の味と共に血の味が広がった。
残酷な事をするわ。この人。

「知っています・・・・。」
辛うじて、涼子は答える。
「どんな名前だ?」
聞かないで。
「松本・・・・・松本乱菊です・・・・。」
「新しい花魁か?」
あたしに、聞かないで。
「はい、そうです。」
あたしにそんな事、聞かないでよ。
「いつから入って来た。」
お願いよ。これ以上、あなたを好きなあたしに、そんな事。
「つい、昨日・・・・・。」
「そうか・・・・。綺麗な女だな。」
言わないで――――――――――――。

2人は何をすることも無いまま、夜を明かした。

「松本さん。」
つい一昨日敵対した声に名を呼ばれ、乱菊は振り返る。
「はい?」
「もう二度と、寄らないで。」
「はい?」
「私の・・・・・私の日番谷さんに・・・・・・口を利かないで、もう近寄らないで!!」
涼子は言った。日番谷が帰った後、乱菊に、涼子は言った。
これ以上、私を傷つけないで、と。遠まわしに。
乱菊は、困惑した表情を浮かべると、『はい、わかりました。』と、言った。言うしか、なかった。


「おい。」
「・・・・・。」
「おいってば。」
「・・・・・・。」
「・・・・・顔を上げろ。」
困った事に、乱菊は、また日番谷と鉢合わせしていた。本当に困っていた。
最初は逃げようとしたものの、お客が来るとお迎えしなくてはいけないのが花魁。
それに、声をかけられてしまったからだ。

『乱菊』、と。

すっと、顔を上げると、翡翠の瞳が目に入った。
え、と思った。何故なら日番谷の顔が目の前にあったからだ。
乱菊は艶やかな着物が汚れるのもかまわず日番谷からゆっくりと遠ざかった。
「何故、口を利かない?」
「・・・・・・・。」
口を利いちゃ駄目、と言われているから。とは言えない。
いつもならそんなものは跳ね除けて、ペラペラと喋るのだが、あの時は、逆らわない方がいいと思ったからだ。
いいや、違う。

逆らいたくない、と思った。涼子が、悲しい女に見えたからだ。
『近寄らないで!!』
決して、同情ではない。同じ女として。同じ花魁として。あたしも、してしまいそうだから。大好きな人ができたなら。
・・・・だから、この願いを聞き届けてあげたかった。

例えそれが、つまらない独占欲だったとしても。

「乱菊ー!松田様が見えましたよ!」
女家主の、声がした。
このころにはもう美しい乱菊にはお得意様ができていた。
天の助けとばかりに乱菊は叫ぶ。
「あ、はい!すぐに参ります!」
「待て。」
腕は、日番谷に掴まれた。身動き、できない。
しかもそこは涼子に強く掴まれた手で。未だに痛みはひいていなかった。
「―――――――――っ!!」
「え・・・・・お前、どうしたんだ?この痕。」
「・・・・・・・・。」
「おい、何か言え。」
「・・・・・・・・。」
「おい!!」
「乱菊ー!!早くおし!!」
「はい!!」

無理やり手を振り解くと、乱菊はすぐ女家主のところに走り、急いで「松田様」が居る所に走った。
「乱菊!!ちゃんと着物は着替えるんだよ!!」
乱菊の汚れた着物を見て女家主は声をかける。乱菊は返事もそこそこに走り去った。
女家主はそんな乱菊の態度に苦笑した後、日番谷に振り返り頭を下げる。

走り去った乱菊の軌跡を目で追いながら日番谷はくしゃり、と顔をしかめた。
口を利いてくれない理由を聞き出さなければ。
妙な焦燥感が日番谷を襲う。
ふと見ると、女家主が乱菊を見送っていた。日番谷はふと、思いつく。
「御見苦しい所をすみません。」
「それは良い。おい、家主。」
「はい、なんでしょう?日番谷様。」
「頼みごとがあるんだが・・・・。聞いてもらえるか?」
「はい、出来ることならなんなりと」
「実はだな―――――――――」


『何で・・・・・』
「よう、遅かったな。」
『何で日番谷様がここにいらっしゃるの!!??』
「松田は俺の部下でな。変わってもらったんだ。もちろん、費用は俺持ちだ。」
「・・・・・・・・・・・」
「なぁ、何か喋れよ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「なぁ。」
何か言え。何か喋れ。何か・・・・・笑ってくれ。
無表情じゃなく、笑顔を。
「・・・・・・・・・お名前は・・・・日番谷冬獅朗様と・・・いうんですよね・・・・?」
「・・・・ああそうだ。・・・・お前は下の名前で良い。」
声を出してくれたのに嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
やっと、口を利いてくれた。
「そうは参りません!日番谷様はここのお得意さまで大切な方なのですから!」
手を握り締めて言う女に暫し驚き言葉を反芻してみた。
そうは参りません!日番谷様はここのお得意さまで・・・・。
ここの・・・。

「お前は、ここから出て行くつもりなのか?」
なんとなくそう思ったから言ってみた。ただの勘。当たるはずの無い勘。
けれど日番谷の勘はよく当たる。
乱菊は、さっと顔を上げた。その顔は『なんで分かったの!?』とでも言うかのように歪んでいる。
「なぁ、そうなのか?」
「・・・・はい。」
「何故だ。」
「女の嫉妬心です。」
答えは、単純明快。
自分が居ると、みなのお客を取ってしまう。だから適度に居て適度な時に出て行ったほうがいいのだ、と。
だけど今回は早すぎた。
何故なら恋の相手を取ってしまったからだ。

「誰のだ。」
「言えません。」
「言え。」
「たとえ日番谷様でも、言える事と言えない事がありますわ。女の体重と一緒でしてよ。」

ふっと顔を歪め、悲しそうに笑った。
日番谷は思った。

綺麗だ。と。愛しいと。

そばに、居て欲しいと。


その晩。乱菊の部屋に女家主が入ってきた。
「どうなさったのですか?」
「乱菊・・・・私はお前が大好きだよ。いつかは友達みたいな関係になれると思っていた。」
女家主は美しい。艶やかで、綺麗で、若く、優しく、気が強かった。見た目25で女家主になった女家主。その女家主が

泣いていた。

乱菊が見る限りこの人は泣く事は無いだろうと思っていた。たった本の数日の間だけども。少なくとも自分の前では泣くことは無いだろうと。
乱菊も、この女家主が大好きだった。
その女家主が大きな目から大きな涙を流している。

「どうなさったのですか?」
乱菊はゆっくり女家主の目尻を拭き問いかけた。
すると女家主は顔を上げて強い目で、しかし悲しそうな目で言った。


「乱菊。身請けだ。欲しいのは、あんただと・・・・・。」


とうとう、この日が来た。そう思った。

乱菊は、薄く、薄く、笑った。


〜続く〜



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あきゅろす。
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