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連載
あなたは私の待ち人〜1〜
※これは日乱パラレルです。明治時代をイメージ(あくまでもイメージです!)した花魁の出てくる話です。苦手な人はバックプリーズ。ではではOKの方だけどうぞ!



待っていた。
何かをずっと待っていた。


あなたは私の待ち人。〜1〜


透けるような白い肌、この国では珍しい、金色に輝く亜麻色の髪。形のよい体。淡い色の唇。すうっと切ったような、射抜くような瞳。
こんな人物、この世にいるだろうか?
誰もが目を疑った。
そのものは本当に綺麗で、本当に美しかった。
同義語だが、他に彼女を表す言葉などなかった。
彼女は、選りすぐられた女達が目を疑うほど本当に美しかったからだ。

「今日から入った、松本乱菊だ。皆、仲良くするように。」
誰も、返事を返す事などできなかった。
声を出す事さえ叶わなかった。
『仲良くするように』と言った。女家主でさえ、それきり声を出す事はなかった。
皆、マジマジとその人物を見ている。
そして、松本乱菊 とか言う女は息を吸い、ゆっくりと言った。

「松本 乱菊です。以後よろしくお願いします。」

その声はやはり透き通った音みたいで美しい。
しかしこの松本乱菊という存在は、ここではいずれ疎まれる事になるだろう。
なぜならここは娼館。
女が身を武器にして働く場だからだ。
ずっと呆けていた女達は徐々に正気を取り戻し、段々『敵』を見る目になった。

「よろしく、松本さん?」

ここのリーダー格らしい女がすっと立ち、手を出した。
なるほど、この女も乱菊とは違う美しさがあった。
そして握手を求めているその手を見て、乱菊も己の白い手を差し出した。

女は言った。
「よろしく」
女は、乱菊と握った手を見ると・・・・思いっきり握った手に力を込めた。
さっそく始まった、『新人いびり』だ。
周りの女達は『今回は前よりは酷くなるだろう』と、ざわついた。
数ヶ月前にやってきた女も約一月新人いびりを受けていた。
そして今回のいびりは・・・恐らく一月以上続くだろう。
女達の誰もがそう思った時、乱菊は女がギリギリと言う音がしそうなほど強く握った手をスッと一瞥して。
「こちらこそ、よろしく。」
と、さらに強く握り返した!!!!
「!!」
女は、自分の手を慌てて引き抜き、大げさな程痛がった。
「い、痛い!!痛い!!」
「あら、あたしったら、つい力を入れすぎちゃって。ごめんなさい。」
女の手には赤く握った痕が付いていた。
「あんた酷いじゃないの!そんなに強い力を入れるなんて!!」
「仕事に影響が出たらどうしてくれるの!?」
取り巻きの女達が騒ぎ出す。
「本当にごめんなさい。でも、それならあたしの仕事に支障が出たらあなたどうしてくれるのですか?」
乱菊は自分の手を差し出して言う。
乱菊の手は叫び怒る女の手よりも赤くなっていた。

取り巻きの女達は一斉に黙り込む。反論の仕様がなかったようだ。
「それでは、荷物を置いてきます。お先に。手、本当にごめんなさい。」
乱菊は、後姿も本当に美しかった。


「・・・・・・やっちゃった。」
十畳一間の部屋に逃げ込むと、乱菊は1つため息をついた。
あたしは、数々の娼館を渡り歩いてきた。
1人で、生きていく為。生きてゆく術はこれしか知らない。
あたしは、強くなるしかない。
乱菊は暗闇に目を向ける。瞳に光が灯る、

明日から、どんなイビリが始まるかは知らないけど、負けないわよ。

かかってきなさい!!と布団もしいていない畳に寝転ぶと、ゆっくりゆっくり重たいまぶたを閉じた。



「あーらごめんさい。」
バシャ
次の日 さっそくイビリが始まっていた。
今のバシャ、という音は花魁の一人がバケツの水を下に居た乱菊に上からかけた音である。
もちろん、雑巾(使い済み)を洗ったあとの・・・・雑巾入りの水である。
「大丈夫ですか〜?風邪をひかれませんでしたか〜。」
そんな笑いが混じった声と共にクスクスと何人かの忍び笑いが聞こえてくる。

・・・・複数犯か・・・・・・。

乱菊は負けずににっこりと笑うと、犯人はびくっとした様に見えた。
「都さんこそ大丈夫ですか?この重たい水を運ぶ為にかなり着物に水をこぼしたんじゃありません?」
「え!?」
慌てて着物を見渡す動作が見て取れた。
「今度から他の方にも手伝ってもらった方がいいと思いますよー。小雪さんとか小梅さんとか絹子さんとか!!」
ビクッと鮮やかな着物がゆらりと揺れたのが見えた。こういう時、花魁は不便利だと乱菊は思う。
「あら?ちょうどそこにいらっしゃったんですかー。小雪さんと小梅さんと絹子さん!!」
「「「なんで・・・あたしたちが居ると分かったのよ!!」」」
「私、湯浴みしてきます。このままじゃあ風邪ひいちゃうわー。それではー」
「「「「ちょ・・・・ちょっと・・・・!!」」」」

慌てている4人の様子を背中で感じ取り、乱菊はこっそり忍び笑いをもらした。
だって、簡単でしょ。貴方達、昨日の顔見せで4人固まっていかにも何かある風にコソコソ話してたし。名前は女将に教えてもらったし。
それに、女って一人で行動できない節があるし。

まず一勝目!と思ってガッツポーズを決め、湯浴みをするために角を曲がると、ゆっくり・・・ゆっくりとこちら向かってくる人影が見えた。
『やばっ!お客さんだ!!』
慌ててお迎えの形を取る。
今で言う、土下座だ。
本当はこんなびしょぬれの格好のままお迎えなんかしたくないのだけれど・・・。
こつん コツン・・・・。

足音が、する。

その足音は乱菊の心にゆっくり染み渡り、温かくした。
あたしは・・・・ずっとずっと・・・待ってたよう気がする・・・・。
何かを・・・ずっと、ずっと待っている気がする・・・・・。
この人を・・・・ずっと、ずっと待っていた気がする・・・。

って。何乙女モード入ってるのよ。
馬鹿みたい。
こんなの、あたしじゃない。
慌てて頭を振り、変な思考を頭から追い出す。

「・・・・別に、ずっとそんな格好とってなくても良い。立て。」
「はい。」
言葉どおりにすっと立つと、相手は怪訝そうな顔をした。
何よ。言われたとおり立っただけじゃない。

「何か?」
「・・・お前、見ない顔だな。しかも変な所が素直だ。」
「見ない顔なのは昨日ここに雇ってもらったからです。変なところは余計です。」
「・・・・・・ずぶ濡れじゃないか。」
「これは空から泥水が降ってきたからです。雑巾つきで。」
「・・・肩に雑巾付いてるぞ。」
「それはありがとうございます。それでは、私は部屋に行かせてもらいます。」
「あ・・・・ああ。」


そして乱菊は客の顔をろくに見ずにさっさとそこから離れた。さっさと身体を洗いたかったからだ。



さきほど話した変な客人はこの店の上客でこの街一お金持ちだと知ったのは、それから数時間後のことだった。



〜続く〜



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