日乱
Honey voice
声変わり前の、その、甘ったるい声色で。
― Honey voice ―
「隊長って、絶対良い声してると思うんですよ。」
「はぁ?」
仕事中の思いっきりな私語に日番谷は思いっきり眉をしかめた。
乱菊はその反対ににっこり微笑む。
「隊長ってまだ声変わり前でしょ?この時点でそれだけ良い声してるんだから絶対将来有望ですよ!」
遠回しに子供扱いされたと感じた日番谷はさらに眉間にシワを寄せる。
「そしたらきっと隊長今よりもっとモテモテですね!やだ隊長困っちゃう!バレンタインのチョコなんかきっと今の比じゃなくなりますよ!」
今『声フェチ』の人も居るらしいですし!
隊長ファン増大ですね!
仕事をしたくがないために口をひたすら動かす乱菊。
今年のバレンタインの事を思いだし日番谷は机に突っ伏した。
「…………あれ以上のチョコはもういい………。」
「まぁそうですよね。」
乱菊もあのチョコの量には正直辟易したのだ。
またその時期は毎年変わらずやってくるのだから、また来年も対策を考えないと行けないだろう。
「あーでも隊長の声変わり後の声って聞いてみたいっ!きっとすごく渋くて良い声ですよっ!今も十分良い声ですけどっ!!」
「それはど―も。」
「あっ信じてませんねっ!きっと隊長の声で告白されたらどんな女の子もノックアウトですよっ!」
「………………ほぉ?」
ガタン、と日番谷はおもむろに立ち上がった。そして乱菊が座っているソファへと近づく。
「な・何ですか?隊長…。」
思わず引き気味になった乱菊の亜麻色の髪を1房掴む。
その掴んだ髪を日番谷は己の唇に当てた。そして瞳を閉じて、口を開く。
「貴方が、好きです。松本副隊長。」
ちゅ。
軽い音をたてて、日番谷は乱菊の髪にキスをする。
目を開けて上目使いに―――…半分だけ睨むように、挑むように乱菊を見ると、当の本人は目を真ん丸にして。一言。
「……………………たいちょって、そうやって女の子誑してきたんですか。」
「はぁ?」
ポカン、とした顔で尋ねれば「だってそうでしょ――!!!」って返ってきた。
「そんな事言ってるから女の子にモテて困ってるんでしょ!!あたしは騙されませんからね――――っ!!」
ガラッピシャッダ――――――ッッ!!!!
乱菊は障子を思いっきり開けて思いっきり閉めて思いっきり走って逃げていった。
「……………誑かすって、何だよ。」
くっくっくっと喉をならして日番谷は笑う。
「こんなこと、お前しか言わねぇし。」
ってか本心だし。
恐らく女子便所にこもり、息を整えているであろう乱菊に向かって一言。
「ばぁーか。」
―††―
バクバクバクバクバクバクバクバク…………
「あーうるさいっ心臓の音っ!!」
全くあんな子供にドキドキさせられるなんてこの松本乱菊も落ちたものだわっ!まさか隊長があんな百戦錬磨な人だとは思わなかった!今度から気を付けなきゃ!!
ふと耳に手をやれば不自然な程熱い己の耳。
『貴方が、好きです。松本副隊長。』
「―――――――っ!!」
まだ耳に残る甘い甘い声。
蜂蜜よりも甘い声の響き。
蜂蜜よりも甘い言葉。
蜂蜜のように心も一緒にとろけてゆく。
あなたの声に私は酔う―――……。
「……………しまった。この顔じゃ、暫く部屋に帰れないわ……。」
それは少年特有の甘い甘い味。
蜂蜜を、なめてはいけない。
(気がついたらもう遅い。だって貴方は恋に落ちた!!)
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