日乱
歪んだ笑顔で狂気とダンスを
爪を、立てて。
― 歪んだ笑顔で狂気とダンスを ―
「あいつは謝った。だから私は行くんです。」
『ごめんな。』と最後に名前を呼んで。
いつも一人称は『あたし』だけど今日は畏まって。
「あいつがもし、謝らなかったら、私はきっとあいつを斬る決意なんてしなかった。」
もし、あいつが謝らなかったら、他の人に斬ってもらおうと思ってたと思う。きっと私は覚悟なんてできない。
少しの希望にすがり付いてたか、もしくは――――……いや、きっとこっちの方が強い。
「私はあいつを許せなくなってると思います。」
多分、毎日毎日仕事にがむしゃらになって。遊ぶときはめいいっぱい遊んで。
だけど、ふとした瞬間に思い出す。
例えば眠りにつく直前。
あの男特有のねっとりした笑いが頭の中で呼び覚まされる。
『 乱 菊 。 』
歪んだ笑顔であたしに触れる。
歪んだ笑顔であたしの名を呼ぶ。
そして彼は最後に謝ったのだ。
『ごめんな。』って。
「だから私は斬るんです。」
彼はきっと。待っている。
あたしに。斬られるのを。望んでる。
だから彼は謝った。あたしに……………。
許されたいからだ。
「隊長。お願いです。私の最高最大の我儘。」
乱菊はにこりと微笑む。
その笑顔は、覚悟を決めた笑顔。
『斬る』と言う酷く簡単で酷く困難な覚悟を決めた瞳だ。
「私に、ギンを斬らせてください。」
あたしにギンを許させて。
乱菊の懇願を聞き、日番谷はそっと手を伸ばす。
そして乱菊の細くて薄い肩に触れる。
たくさんの人達が憧れる姉御肌の女は紛れもなくただの女だった。
しかしそれは紛いもなく戦士の肩だ。覚悟を背負った乱菊の重い背中。
そのまま日番谷は乱菊の腕を引っ張り、抱き締めた。乱菊も日番谷の背中に手を回す。
日番谷は少しでも彼女の重荷が自分に分けてもらえるように。願いを込めて。
乱菊は『斬る』と言う覚悟を少しでも日番谷に分けてもらえるために。願いを込めて…。
強く、強く抱き締め合う――。
歪んだ笑顔で狂気とダンスを。そして狂気に爪を立てる。
歪んだ笑顔で狂気の手が離れたら。
笑顔と涙で化粧をして。
そして最後に言いましょう。
「さようなら。」
狂気に刀を振り下ろす。命に代えてもこの哀しきワルツ。
踊りきってご覧にいれましょう。
〜Fin〜
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