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愛しいから、護りたい
突拍子もなく現れたその姿はひどくまがまがしく、けれども何処か悲しい姿をしていた。以前その名を馳せた鬼とは別人のよう。

「………高杉」
「はっ、珍しいなァ。此処にてめぇが赴くとはよ」

首筋から頬へと浮かぶ文字。銀色に近かった髪は今では白と称する方が良いのではないか、と思うくらい薄い色をしている。
声音さえも、以前やりあった時とは違い弱々しい。『次に会ったらお前をぶった斬る』そう言ったのはこいつだったか、と頭の片隅で思いだし刀に手を掛ける。

「…殺りに来たんじゃねぇよ」

こいつ、銀時から発せられたのは苦笑いとその言葉だった。僅かに目を開く。ただ、驚いた。

「次会ったらぶった斬るんじゃねぇのか」
「こんな事になる前なら、な。それどころじゃねぇんだよ」

『てめぇと話がしたい』掠れた声でそう言われれば、刀をとる理由など無くなる。でも俺がこいつの話を聞いてやるのは優しさとか同情とかじゃない。気紛れ、だと思う。

「お前……厭魅って覚えてるか?」
「そいつがどうした」
「俺、そいつの…いや、今江戸で白詛って病気流行してんだろ?俺がその元凶なの」

別に驚きはしなかった。白詛の事は数年前から聞いていたし、こいつの雰囲気が何処か己を責めるようなものだったのもなんとなく感じとれたからだ。
銀時は少し間を取りながら話を続ける。

「…俺の体内にナノマシンウイルスが居るんだと。そっから白詛が流行して、今じゃこの有り様だ。……なぁ、高杉。俺を殺してくれねぇか」

無音。無言。ひやりとした空気が漂うなか、不意に首筋を汗が伝った。あの鬼が自ら命を捨てるだと?あんなに仲間を思っていたこいつがそいつらを捨てるだと?俺に『殺せ』と言うなんて、どうかしてる。

「いつから気付いてたんだ、そのウイルスの存在に」
「……5年前、…まだ平穏な日々が続いてた最中だよ」





「……………なあ銀時」
「うん?」
「なんで、気付いた時に…もっと早く言わなかった。」

恐らく、あのガキ共には伝えていないのだろう。勿論幕府の犬共にも。桂は…微妙だがきっと伝えていない。
つまりこいつは5年間一人で事を抱えていた事になる。何故、昔から変わらない。『一人で抱えても解決しねえ』そう告げた事もあっただろうに。

「なんでって、そりゃ…うおっ」

理由なんか聞きたくなくて。腕を思いきり引っ張り、抱き寄せる。まだ冷えきっていない身体が更に後悔を昂(たかぶ)らせた。

「俺はてめぇが好きだと言った」
「うん」
「てめぇも俺が好きだと言った」
「うん」
「なのに5年間、てめぇは俺さえも頼ろうとしねぇ」
「…うん」

互いの表情は見えない。ただ、銀時の言葉が次第に掠れているのはきっと、泣きそうなんだろう。

「銀時…てめぇは」

「頑張り過ぎだ」
「…っ、ぅ…」

嗚咽が聞こえ始め、銀時の肩が震えた。自然と腕に力が籠る。ああ、もっと早く。こいつの事に気付けて居たのなら。もっと早く抱き締めてやれたのなら。何か変わったのだろうか。

「高杉、ごめ、ひぐっ、ご、め」

零れ落ちる涙を指先で掬い、目尻にそっと唇を落とす。それから落ちた痕を伝い、銀時の唇へと重ねる。
触れるだけの短い接吻を交わし、もう一度腕の中に閉じ込めた。

「俺はてめぇを殺しやしねぇ。この世界もろとも壊しやしねぇ。てめえが生きて、足掻いて変えてみろ」

坂田銀時なら、簡単に死を選ばねえ。
白夜叉なら、限界まで足掻くだろうよ。
てめえは坂田銀時であり、白夜叉だ。ウイルスなんかに負けてんじゃねえ。

「高杉、俺、江戸でケリつけてくるから。言わなかった事許せ、よ」
「ああ、いいぜ」

きっとこれがヅラや辰馬だったら斬っていたのだろう。銀時だからこそ。俺は汚せないのだろう。
こんなになるまで抱え続けたこいつが、ただ愛しいんだ。愛しいものを壊す理由など無い。ただ。ただ護りたいんだ。救いたいんだ、なんて言ってやらないけれど。




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完結篇で高杉が出ないのは銀時を死んだと思っていないし、忘れる筈がないっていう愛の現れだと思ってます(大真面目)

 

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