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アイツに話しかけてみたいと思いながらも、今まで気にする素振りすらなかった俺がいきなり話しかけようものならヅラのヤツが、
何があった?
お前も気になっていたのだな。
恥ずかしかったのか、なんだ情けない。
よし、俺が見本をだな。
とかなんとか煩そうになるのは目に見えていたので、中々話しかけることができずにいた。
そんな俺に契機が訪れたのは、冬のある朝だった。
とても静かな朝だった。
外に出れば、夜のうちに降り積もったのか一面に広がる銀世界、それに反射する朝日。
周りの音が雪に吸い込まれ、
まるでこの世界に、自分一人しかいない、と錯覚するくらいの静けさ…。
雪を踏みしめる音もどこか遠く、夢の中にいるような不思議な感覚だった。
ふと、桜の木に目線をやるとアイツ…銀時がいて、何をするわけでもなくボーっと立っている。
今なら誰もいないし話しかけてみよう、と桜の木へと向かった。
……ヘタレとか言うんじゃねぇぞ。
近づいてもこちらに気づきもせず、どこかを見つめているアイツの横顔に声をかけようとした瞬間、
―――――― ザアァァァァッ
強い風に大量の雪が舞い散る――。
まるで桜の花びらのように美しく、
白く白くはらり、はらり、と。
その中に立つアイツを見て思わず息をのんだ。
――あまりに綺麗で、そして……儚かったから。
日の光で銀髪が透きとおり、僅かに緩められた唇、けれど光のない瞳、そこから溢れ落ちる一筋の雫。
ちぐはぐな表情に、アイツの不安定さを感じ、その不安定さと美しさに儚さを感じた。
舞い散る雪の花と共に消えてしまいそうなほどその姿は危なげで……
無意識の内に銀時の腕をわし掴み、おもいきり引き寄せた。
消えさせてたまるか、と必死に………
自分でも笑えるくらい必死の形相だったと思う。
俺を見たアイツが少し驚いた表情をした…
――あ、やっと瞳に映してくれた―――
と思う間もなく、
…………盛大に転んだ。
……引き寄せたはいいが、雪に足をとられて踏んばれなかったんだよ…
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