main Don't go back 7 シャープールとの昨夜の情事のあと眠ってしまった俺が、目を覚ましたのは、昼過ぎになってからだった。 あいつは毎回、俺が寝ている間に体を清めてくれる。そのあと、まだこの館にいるかどうかの確率は半々くらいだが、今日はいないらしい。 しかし、今日は部屋の中に見慣れない人物がいた。 「やっと目が覚めたのね」 とんでもない美女が俺のベッドの上に乗り上がってきた。濃い灰色の紙と、俺たち帝国の人間よりも色のある肌が、この国の人間であると示していた。 「わたしはアデル。あなたはヴァレリアヌスよね」 「そうだ。ここへ入ることは禁止されているんじゃないのか」 アデルは肉厚の唇を横に引いて、笑う。 「あら、わたしのすることならシャープール様は許してくださるに決まってるじゃないの」 「どういうことだ」 「ふふっ、どうやら、ある程度の言葉は喋れるのね。助かるわ。わたしはここの言葉以外わからないし」 「質問に答えろ」 「わたしが言いたいことはひとつだけよ」 アデルの手が伸びてきて、俺の首をつかむ。そして長く、色を塗られた爪が皮膚にめり込んだ。 「シャープール様を諦めなさい」 「は?」 「シャープール様は毛色の変わったお前に構って、ちっとも後宮に来てくださらないわ」 「それは!お前の魅力が足りないだけだろ!」 「ふふん、わたしは忠告してあげているの、ヴァレリアヌス。男を抱くなんて、シャープール様はすぐに飽きるわ。そして処刑される前に、国に帰りなさい」 「帰れる国なんてない」 「安心しなさい、わたしが手配してあげる」 「......」 女の言うことはもっともだと思った。 こんな生活、長くは続かない。そのうちシャープールは俺に飽きて、ここに放置するか国に返すか、もしくは処刑してしまうだろう。 それなら、奴が俺に飽きて冷たい視線を投げつけてくる前に、あいつの前から消えてしまった方がいいのかもしれない。 だから俺は、アデルの言葉に躊躇いながらも、頷いてしまったのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |