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出会いの話
side明史

俺は芸能事務所starshipに勤めてるいるしがないリーマンだ。
給料はそこそこだし、の割りに激務だし、たまになんでここで働いてるのか、わからなくなるが、今日みたいな日のためなんだって、久々に思った。

「はじめまして、嵯峨野です」

目の前の男女四人組は、圧倒的支持を得るインディーズバンドで、俺の仕事はスカウトだ。
社長直々の命令である。
うちより大手のとこがスカウトしても、靡かなかったらしいけど、大丈夫なのだろうか。

それにしても、オーラがすごい。
成功しそうな気迫がある。
そういう若い卵に出会ったとき、俺はこの仕事をやっててよかったと思う。

「決めた」
黒くて綺麗なセミロングの髪をした、女の子がそう言って俺に手を伸ばしてきた。

「わたし、Night−nighT−MerE(ナイトナイトメア)のヴォーカルしてる江東かぐやです。starshipさんに所属させてください」

こんな簡単に事が運んでいいのだろうか。そんな思いが頭を駆け巡ったが、好機に飛び付かない者は好機を逃す。
俺はしっかりと差し出された手を握った。



俺は4人と軽く契約の話をして、社長に合わせることにした。
うちはそんなに大きな会社ではないので、スタッフと所属者との関係を大切にしている。

「えっと、ヴォーカルとギターの江東かぐやちゃんと、同じく江東月夜(つきや)くん...二人兄弟なんやな」

真っ黒な髪と目に真っ赤なルージュとスーツという、お前が芸能人か!みたいな格好をしたうちの女社長、加納明菜(かのうあきな)がぶつぶつと呟く。

「兄弟でバンドて、うちん事務所にはおらへんから、おもしろいわぁ。ほんで、そこの無愛想姉ちゃんと兄ちゃんの無愛想コンビが...」

「社長!全部聞こえてますよ!!」

俺が文句を言っても、社長は全く聞いてない。
「ベースの雨宮雨季(あめみやうき)...湿気た名前やなぁ。格好いいけど。そんで、ドラムの兄ちゃんが葛城龍(かつらぎりゅう)...うん!ナイメアいけますよって!」

「社長、ナイメアって...」

俺が、口を挟むと、やっと独り言の世界から帰ってきた社長は、書類をぱーんと俺に投げつけた。

「Night−nighT−MerE略してナイメア。その方が言いやすいんちゃうの?」

「そうですね、俺たちもそう思いますし、インディーズのファンしてくれてる人たちもそう呼んでます」

そのとき、初めて江東月夜の声を聞いた。

低くて、甘い声。

虜になりそうな...そんな、声。

「うちん事務所は、鳴り物入りのインディーズ言うても、こき使うし、容赦せぇへんよ。でも、あんたらが売れるて、うちが直感したから、スカウトした。その直感が偽物や無いって、見せてほしい」

社長がなんかかっこよさげなことを言っていたが、なにも聞こえない。さっきの江東月夜の声で、頭が一杯だった。

「はい、わたしたちも、所属するならstarshipって、決めてました。音楽をすごく大切にしてくれるところだって聞いてて」

「ふふ、うちも昔バンド組んでてん。素人のコピーバンドやけどね?...まぁ!これが書類。判子とか押して、そこの嵯峨野に渡したらええよ。それがあんたらのマネージャーやさかい」

「ええっ!?」

社長の言葉に、さっきまで機能していなかった耳が突然動いて、驚き椅子から立ち上がってしまった。

「俺、スカウトですよね?」
「だって、寺田が寿退社しやがって人手足りへんもん。やれ」
社長命令にしがない社員の俺が逆らえるわけもなかった。

しかし、ナイメアの4人は喜んでくれたので、良しとしよう。

「うちんとこは、事務所のメンバーはみんな家族やさかい、よろしゅーな」

社長と握手する4人を見て、絶対ナイメアを最高のバンドにするんだ、そしてそれを知ってもらうんだ、と俺は心に誓った。




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あきゅろす。
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