main 赤彦という少女 久々に憑人の妖魔の餌になって、そのあと風呂からでて、倒れるように寝た。 餌にされるってことは、自分のなかのエネルギーを食われることだから、それなりに力を持っていかれる。 だからそのあと起きたのは夕方で、体の言えないような場所が痛んだ。 「やっと起きたか」 目が覚めると、すぐ隣に憑人がいた。 しかし、俺の視線は、焦がれる憑人にではなく、その隣に座っている19歳くらいで黒髪ショートカットの少女に向けられる。 「赤彦」 名前を枯れた声で呼ぶと、赤彦はにこっと笑い 「岳、おはよう」 と頭を撫でてくれた。 筑波嶺赤彦(つくばねあかひこ)、この屋敷の主人で、現存するなかで最強の剣士。 彼女を普段見る限り、強そうとか、さっきを飛ばすとか、そんなことは全然ないけど、むしろドジに近いけど、戦闘になれば勝てる人なんてほとんどいない。 「また憑人に悪いことされたんだねー。つらかったねーほーら、なでなで」 抑揚の乏しい声で言われ、頭をずっと撫でられる。気持ちよかったし、安心できる。 赤彦といるのは、ひどく心地いい。 これがよい友人というものだと思う。 俺の世界には、赤彦と憑人、あと屋敷のジジイどもしかいないけど、それでもふたりがいてくれるなら、まだいい。 「そうだ、今日はね、長崎に行ってたの。これ、お土産。綺麗でしょ?」 赤彦が俺に差し出したのは、赤いビードロのポッペン。 でも、使い方がわからなくて、赤彦に聞く。 「いやぁ...わたしも綺麗だなあって買ったから...」そう言い淀む赤彦の隣で、憑人が大袈裟にため息をついた。 「貸してごらんなさい」 俺の手からポッペンを奪って、自分の唇でくわえてみせた。 すると、ぽっ、ぱこっ、と音がする。 俺と赤彦は不思議そうにそれを眺めた。 「ほら、岳、くわえて」 自分の口から離したポッペンを、憑人が俺にくわえさせる。 「ちょっとだけ、息を吐いて」 憑人の言うようにすると、奴が鳴らしたのと同じ音がした。 それがうれしくて、何度も何度も鳴らす。 その光景を見て、赤彦と憑人がちょっと笑ったのがわかった。 憑人に頭をすっと撫でられる。 今朝やられたことも忘れて、俺はすっかり上機嫌だ。 ずっとこのままならいいのに、そう心のなかで祈った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |