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岳という青年
一応BLです(一部18禁鬼畜注意)
君は、自分がとても小さな存在に思えたことはない?
俺はあるよ。
俺の隣にはいつも赤彦と、憑人(つきひと)がいたから。
俺だけが出来損ないだった。
俺だけが力を持たない。
それが俺には、死ぬほど辛い。
今日も俺は、屋敷の中で眠っていた。
俺の睡眠は深くて長い。
夜の9時には寝て、朝は10時に起きる。無理をすれば、それ以下にすることだって可能だけど、憑人に固く禁じられている。
毎日13時間寝たあとは、屋敷のなかだけで自由行動。まぁ、無駄に広いから、庭の散策とかしていたら、運動不足にもならないんだけど。
だけど、もう俺は十年以上屋敷の外に出ていない。今23歳で、だから13のときに、何かあったらしいけど、屋敷のジジイどもはみんな口を閉ざす。
俺なんか閉じ込めたって、何がいいことあるんだろうって思うけど、俺は憑人の言うことになんて逆らえないから、屋敷を出たりしない。
「岳」
起き抜けのビールを煽りながら、縁側で桜を眺めていると、屋敷を囲む高い塀の上に、一匹のカラスが止まっていた。この屋敷で、俺を岳(がく)って呼ぶのは、二人しかいないから、必然とその言葉を発した相手はわかる。
俺は立ち上がり、カラスに向かって右手を伸ばした。
「憑人」
カラスは塀から俺の腕へ飛び移り、そのあと、人間へ変化した。
まぁ、もともとは人間の姿が正しいんだけど。
真っ黒い髪と赤い目、俺はいつもそれに引き付けられて、でもそんなこと、きっとこいつは知らない。
俺より頭ひとつぶん高い背は、スーツに包まれていて、フレームのほとんどない眼鏡が、奴をこれ以上ないくらい、理知的に見せる。
「さて、岳、いつも通り、アレしましょうか」
奴は俺の感情を知らない。
知らないから、アレができるのだ。
アレの度に俺が傷ついていることも知らないだろう。
でも、知ったところで変わらない気もしてしまって、俺は項垂れたまま、憑人に部屋に連れていかれた。
to be continued
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