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Alpha dog3
「結城ー!吉野ちゃーん」
ライブハウスの楽屋へ行くと、ボーカルとギターの美作が既に来ていた。
「美作さぁ、いっつも思うんだけど、なんでお前他のメンバーは名字呼びなのに、吉野だけ吉野ちゃんなの?腹立つんだけど」
「えー、だってかわいいじゃん、吉野って響き」
「ムカつく」
すると、ふたりの会話を楽屋の隅で聞いていた、ギターの椎名が笑った。
「相変わらず、結城は広田以外には厳しいな」
「とーぜん。むしろ他の奴に優しくしなきゃならない意味がわかんない」
こういうことを、平気でいってしまえる三笠が、照れくさくて、俺は俯く。
すると、それに気づいてくれた椎名が、話を進めてくれた。
「お前ら、打合せしようぜ」
「あーい!椎名アドリブやってよ」
「美作はちゃんと歌えよ、こないだみたいにハミングで通したら、さすがに怒るぞ」
俺は3人が打ち合わせをしている間は、ひたすら手首を動かす。俺は他の3人みたいにすらっと叩けないから、ライブ前の準備体操は必ず欠かさない。
それに、ライブ中に話したりもしないから、あんまり話し合いに参加しなくても平気だ。
俺の性格を3人ともちゃんと理解してくれているから、安心して自分のことだけできる。
いいバンドに入ったなぁなんて、いっつも思う。
ステージに上がると、先のバンドの余韻もあって、ライブハウス全体が熱を持っていた。
美作は、そんな他のバンドが作った空気を、俺たち色の熱に変えるのが好きだと言う。
俺にはそんなこと考える暇もなくて、ただただ、3人に置いていかれないように、3人を支えられるように、叩き続ける。
うちのバンドは、一曲目にMCを入れない。圧倒的な音楽で空気を変えてやろうっていう美作のポリシーに乗っ取っている。
それだけの自信がある美作が羨ましいけど、そんなやつと音楽が出来ることは、とても幸せだ。
他のメンバーは曲と曲との繋ぎに喋ったり色々していたけど、俺はひたすら、叩いて水飲んで、叩いて。
だから、最終的に、会場の熱気とかもあって、俺はへろへろになってしまう。
でも、なんとか最後までやり遂げた。
体力がないのは、マジで今後最大の課題だけど、とりあえず、今日頑張った自分をほめてやりたい。
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