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Alpha dog
バンドもの
ベース×ドラム(一部18禁)
「吉野」
その日はたまたま気まぐれに出掛けていた。肩にかけるタイプの黒い鞄だけの身軽な格好で街をふらふらしていた。
だから、こいつ、三笠が近づいてくることに気づかなかったのだ。
俺は、音楽のこと以外では集中力を欠きすぎだと、よく注意される。それが遺憾なく発揮された結果だ。
「吉野」
「聞こえてる、三笠どうしたの」
さっきまで交差点の向こう側にいた、ベースを背負ったままの三笠が、こっちへと向かってきている。
今更逃走することもできないから、仕方なく捕まる。
三笠は俺と自分の手を繋いでみせた。もちろん、恋人繋ぎで。
「かわいい恋人をたまたま発見したからには、声かけないわけには、いかないでしょ」
「あっそ」
手を繋いだまま、にっこり笑いかけてくる三笠に、素っ気ない返事を返す。ただこれは本心じゃなくて、意地っ張りな俺の最大限の努力だ。
ほんとは、うれしい。
圧倒的に言葉が足りないはずなのに、俺の「あっそ」だけで、俺の気持ちを理解してくれるあいつは、そのままニコニコと俺を連れて歩く。
俺と三笠はつきあっている。もちろん、恋愛的な意味で。
しかも、お互いに、同じバンドに所属している。
俺はドラムで、あいつはベース。
いわゆる。リズム隊だ。
三笠はスキンシップが激しいタイプで、人とのじゃれあいが苦手な俺は、それが嫌なはずだった。最初は。
気づいたら、俺もこいつから離れられなくなっている。
手を繋ぐのだって、他の人間ならマジ勘弁だけど、こいつとなら、心地よい。
これは、
能天気エロベース結城三笠とネガティブドラム広田吉野こと、俺の
ちょっと変わった恋と愛の話。
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