番外編
9
気づいたら、獣のように叫んでいた。携帯電話を壁に投げつける。意味不明な事を喚きながら、俺は跪いて、床に顔をつけて、泣いた。泣いた。
「六…」
小さな声が後ろからした。扉が開く気配。真っ暗な部屋の中に線みたいに光が入り込んで俺の無様な姿を照らす。四季姉?違う。
「七海っ…入るな!見んな!出てけ!」
子供みたいに喚く。ぐずぐずになった視界の中に、黒いふりふりの服に身を包んだ妹がいた。
「出てっ、けっ…!」
涙が止まらない。このまま干からびるかもしれない。ミイラになって死んでしまいたい。
武田。
「六…どしたの…?」
七海は真っ黒なレースのソックスに包まれた脚を部屋に踏み入れた。入るなともう一度叫びたかったけど、嗚咽で声が出なかった。
「…何で泣いてんの…?」
七海は俺の前に跪いた。お前だって、今四季姉に殴られたばっかだろ。
「六…」
えっく、と自分のじゃない嗚咽が聞こえた。七海が、七海も、泣き始めた。バカ、化粧が落ちたらお前の顔はシャレにならない。
俺が怒ると怒る。
俺が泣くと泣く。
俺が笑うと、笑う。
たった一人の俺の妹。
ああ、なんだ。
ちっとも変わってないじゃん。
わーん、というより、うぎゃああ、と二人して泣く俺達を、扉の向こうからバカ兄弟どもがこっそり見ていたらしいのに気づいたのは、壱兄が帰ってきて、俺達の泣き声に慌てて階段を駆け上がってきた時だった。
その手には40%引きのネギトロ丼の入った袋。
『本当の答えは、本当に特別な人しか知らないんだ』
武田。
凡人でバカな俺は、
お前を友達だとばかり思っていた。
お前は俺がいなきゃだめなんだとばかり、思って、
「六!七海!」
壱兄は俺達が超泣いてるのを見て、一も二もなくネギトロ丼放り投げて俺達を抱きしめた。
ここは言ってやろう。『俺に触るな』とか『七海を慰めてやれ』とかなんかかっこいい、物語の主役っぽい事を。
俺は叫んでいた。
「うわああああん壱兄ごめぇええん」
繰り返す。
はっきり言って俺の家庭は
最低のバカしかいない。
2009.10.7.
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