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番外編
6

「武田、お前、ほんと俺がいなきゃダメなんだからさ」

武田は何も言わなかった。泣いているのかもしれない。

水上長雨は俺が嫌いだったらしい。でも、ほんと言うと俺は最初はそんなに嫌いじゃなかった。情報屋の浅野佐助とあっさり仲良くなって、毎日くだらない話をして笑ってる姿を見て、危なっかしいと思うのと同じくらい、すげぇなと思ってた。

そう言えば武田は、水上長雨とはそこまで仲悪くないんだっけ。

「なぁ、武田」

俺は水上長雨には嫌われてた。だけど、お前なら、一緒に居られるんじゃねぇか。
思い出す。初めて水上長雨と会話をした日。俺は浅野佐助を悪く言った。水上長雨は怒った。わかってる。多分あいつはすごく、良い奴なんだ。俺はあの一件で嫌われたけど。

武田、お前なら、水上長雨に大事にされるんじゃねぇか。

「武田………俺がいなくて寂しければ、水上長雨と…」
「六くん、大変なんだ」

俺を遮った武田の声は、また妙にしっかりしていて武田じゃないみたいだった。

「水上くんと、生徒会が手を組んだみたいだ。六くん、もしかしたら今後、まともな進路にはつけないかもしれないよ」

えっ、と、思わず声を上げてしまった。全身の血が冷える。

「水上くんが君に電話をするかもしれない。君を心配する素振りをするかもしれない。でも、居場所を言っちゃだめだよ。騙されないで、六くん」

現実味がない。他の世界で起きている話みたいだ。武田の声が、遠い。

「騙されないで」









武田との電話を切った後、俺はしばらくベッドの上で女の子みたいに座ったまま携帯を見つめていた。

武田は俺に水上の電話番号を教えた。この番号から掛かってきたら警戒しろと、そう言って切った。

その番号を、押してみる。小さなディスプレイに11桁の数字が並ぶ。

「水上…」

俺を、騙す?

あんなに、友達想いで、あんなにまっすぐで、あんなに、頭の良い奴が。

俺を、騙す?




俺を?




通話ボタンを押していた。コール一回で、怖くなって切った。心臓が口から飛び出しそうなくらい緊張していたけど、水上は掛け直してきたりはしなかった。








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あきゅろす。
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