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番外編
4






武田の言葉を思い出す。いつだったか、にこりと笑ってあいつは言った。







『ねぇ、六くん、1+1は何だか知ってる?』








2だろ、と答えた俺に、武田はいつになく落ち着き払った態度で言った。

『違うよ。それは正しい答えじゃないんだ』

どういう意味だよ。俺は訊く。武田は笑った。あいつじゃないみたいな顔だった。

『本当の答えは、本当に特別な人しか知らないんだ』

答えは結局教えてもらえなかった。水上長雨は、あの公式を知っていた。あいつは答えを知っているんだろうか。








特別だから。







壱の前に置いてあった湯飲みを掴んで、四季姉に向かった。

「きゃあっ!」

熱い緑茶が、四季姉のきれいな顔を襲った。四季姉は顔を覆う。しまった。やりすぎた。謝ろうとした時、顔の左半分からゴッ、という鈍い音がして、俺は吹っ飛ぶ。つい最近もこんな事があったばかりだ。

「い、壱兄」

次郎が情けない声を出す。うずくまったままの四季姉に母ちゃんが駆け寄るのを気配で感じた。

顔を上げる。壱兄が俺を見下ろしてた。すげー怖い顔で。





なんだよ。




なんだよ、てめーなんか。





どんなに家で威張ってたって、ただのちっこいスーパーの店長じゃん。社会的地位なんてゼロじゃん。恥ずかしい。偉そうにしてんなよ。どうせ仕事先じゃ客にへこへこしてんだろ。


俺はてめぇみたいにはならねーよ。


「なら好きにしろ、六」


壱は悔しそうなツラだった。何でだか、俺には分からない。

「だけど、俺の役目は家族を守ることだ」

ああ、四季姉が泣いてる。

「俺の家族を傷つけるなら、お前をぶっ殺してやる」

壱の眼は迷いがない。だけど悔しそうに、悲しそうに細められる。




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あきゅろす。
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