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番外編
3

「………六、座れば」

一之瀬参(いちのせ さん)が静かに言う。心底どうでもいい、早く終わってほしい。そんな顔だった。昔から参は家族に興味がないらしくて、いつもこういう時冷たいツラをしてる。

「四季ちゃん、七海やっぱ帰ってこないって」

今朝と違う場所にトーンとインクをつけた次郎がケータイを見ながら言う。

「そう、分かった。また叱っておくよ」

四季姉はため息をついてソファの空いた席についた。その隣に、黒い目でじっと俺を見つめる男がいた。

「六、話がある」

一之瀬壱(いちのせ いち)。こいつのこの言葉で我が家の会議は始まる。その向こうのダイニングで、母さんは座ったまま心配そうに俺達を見ている。









「学校をやめたって?」
「だから?」

壱兄の正面にあぐらをかいて、俺はふんと鼻を鳴らした。

「どうして」
「嫌気が差した。最低の場所だったよ。入るんじゃなかった」

そうだ。最低の場所だった。俺をないがしろにして、あんな奴をちやほやして、俺をカンニングなんて道に走らせた。情報屋なんていう下世話な存在も、成績重視のあのシステムも。何もかもが俺を陥れた。

「お前が言い出して入ったんだろ。理由くらい言え」
「保護者ヅラしてんじゃねぇよ」

そんな事だから、嫌になったんだ。この家も壱兄も。

「好きにさせてくれよ。嫌になったんだから仕方ないだろ」
「六、いい加減にしな」

ぴしゃりと言い放ったのは四季姉だった。四季姉はきれいに淡い色のシャドウで彩られた目で俺を見据えた。

「あんた昔からそうだね。自分の事が一番で何かあると全部人のせいにして。壱があんたの事どれだけ心配したか分かってないでしょ」

何だよ。
姉ちゃんまで、俺をそんな目で見るのかよ。

「し、四季ぃ」

次郎が情けない声を出しながら、俺と四季姉を交互に見ている。

参は黙って頬杖をついて、そっぽを向いてる。

伍郎は貧乏ゆすりを始めた。

七海はまだ、帰ってこない。

何もかもがイラつく。

「あんた、自分が特別だとでも思ってんでしょ」

四季姉が畳み掛けるように言う。俺は思わず拳を握り締めていた。

「うちの家族はバカで、そんなバカとは自分は違うと思ってんでしょ。違うからね。特別なんかじゃないんだから」




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