番外編
2
七海は無言で家を出た。次郎が困ったように笑う。変わってねぇな、この家は。相変わらずバカの巣窟か。
「と、とにかく、壱には早く帰ってきてもらうから、ちゃんと話し合いましょう、六」
「いらねぇよ。もうやめたんだから。俺ちょっと寝るから」
二階へと上がっていく。自分の部屋に入ると、二段ベッドの下がごちゃごちゃとマンガやゲーム機で埋め尽くされていて腹が立った。伍郎か。死ね。
上の段に上がって、寝転がる。携帯を見る。誰からも着信はなかった。部活の奴からも、クラスの奴からも、武田からも。
『六くん、た、大変、だよ!六くん、生徒会に知られ、てるよ…!』
武田の言葉には正直ぞっとして、俺は学校を捨てた。水上達にとっつかまった直後だったから、あいつらがチクったんだろう。武田には止められたけど、もうあそこにはいられない。
「全部あいつのせいだ…」
あいつさえ来なけりゃ、俺はもっと平穏に暮らせたんだ。エリートへの道を登っていけたんだ。カンニングなんかしなくて済んだ。リンチを依頼したりもしなくて良かった。学校を出たりなんかしなくても、やっていけたのに。
ぐちゃぐちゃの頭の中を消し去りたくて、無理矢理眠りに落ちていく。武田が泣いちゃいないかと、ちょっとだけそれが心配だった。
「六、起きな」
凜とした声が落ちてきて、俺はすぐに覚醒した。よく眠れたはずなのに、だらだらと嫌な汗をかいていた。
暗い部屋の中で、扉から差し込む光だけにかすかに照らされた顔が見える。生徒会の藤堂綾にも負けないくらいの美女、俺の姉ちゃん、一之瀬四季(いちのせ しき)が俺の顔を覗き込んでいた。
「四季姉」
「うなされてたよ。具合悪い?」
うなされてた?
こめかみを汗が伝うのを感じる。何か夢を見ていた気がする。耳をつんざくような誰かの叫び声を聞いた気がする。
あれは、水上長雨?
「六?」
真剣な表情で、四季姉が俺を見つめている。俺は首を振った。
「だいじょぶ、何でもない」
「なら起きな。壱が帰ってきてるから」
時計を見る。夜中の11時。相変わらず、壱兄の帰りは遅いらしい。
「………分かった」
渋々体を起こす。二段ベッドから降りて、四季姉の後に続いた。
ゆるくパーマのかかった栗色に染めた髪を見つめながら、階段を降りていく。
リビングに入ると、久しぶりな面々が俺を一斉に振り向いた。
「ぎゃは、ほんとに六じゃん」
にやにや笑いながら俺を見るのは一之瀬伍郎(いちのせ ごろう)。チャラ男に磨きがかかってる。金髪に色黒。口ピアスを舌で弄ぶ仕草が下品すぎる。不思議だ。同じ金髪ピアスなのに、高見沢レンとの格の違いは一体何だろう。
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