番外編
バカの血筋
はっきり言って俺の家庭は最低のバカしかいなかった。
一年ぶりに、帰ってきたくもない家の前に立つ。家っつったって、別に豪邸じゃない。親父がローン組んで建てた、ちっさい家だった。
「………だいま」
玄関を開けて、呟く。パタパタと駆けてきた足音は母さんのだった。
「六…六!?」
年のいった母親は、もうずっと前からダッセーエプロンを使っている。真っ白でフリルのついたエプロンは、使い古されていたるところに染みがある。
「どうしたの、あんた学校は!?」
「やめてきた」
「はぁ!?やめて…きたって、どういう事なの」
「うるせーよ。俺の勝手だろ」
ずかずかと家に上がると、何だか妙な匂いがすることに気づく。ウチってこんな匂いだったか。友達の家に行くと独特の匂いを感じたりするけど、そんな感じだ。ウチにも匂いがあるなんて初めて知った。
「六!一体どういうこと!」
勝手にポテチを棚から引っ張り出してきて袋を開けると、母さんが俺に詰め寄ってきた。
「うるせぇな。やめたんだよ。あんな陰気なとこ行ってられるか」
ソファにどさっと腰掛けて、ポテチを頬張る。
「なー、今なんか六の声が…」
トントントン、と軽快な階段を降りる音。ひょこっと顔を出したのは二番目の兄貴だった。
一之瀬次郎(いちのせ じろう)。
「六!えー!どうしたんだよ!おぼっちゃん学校はー?」
「次郎…てめぇこそまだニートやってんのかよ」
次郎はインクやらトーンのついた顔でははは、と笑った。
「ニートじゃなくて『夢に向かってがんばってる』って言ってくれよ。今度のは自信作なんだ」
だせぇ。何が夢だ。
「良い年こいて漫画で食ってけるなんて本気で思ってんじゃねぇだろうな」
「うわ、出たよ。六の内弁慶。かわいくねぇ」
次郎の後ろから、ふりっふりの黒い服に身を包んだ女が、何事もなかったかのように通りすぎようとする。
「おい、七海」
一之瀬七海(いちのせ ななみ)。
うちで一番年少な妹は、うちの誰より図太い態度で、俺を睨んだ。黒い縁取りの目が気持ち悪い。
「お兄様が帰ってきたってのに挨拶の一つもなしか」
「どちら様でしたっけ?」
「てめぇ」
「あたし今から彼氏んち行くんだから声掛けないで。気分悪くなる」
「はっ、その悪魔みたいなナリでかよ?彼氏の事喰いにでも行く気か?」
「………最低」
鋭く俺を一瞥して、妹は玄関に向かった。
「ちょっ…七海!夕飯までには帰ってくるのよ!」
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