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番外編
4

「俺もすごく会いたかった」

柵の向こうのその眼は茶化そうとする意図も恥ずかしげもまるでなく、俺は結局二の句が告げなくなり、もう一度腕を伸ばして柔らかな黒髪をくしゃくしゃにしてやった。長雨が笑いながら言う。

「次は前もって連絡しろよ。ここじゃ落ち着いて話もできないしさ」
「反省してます」

長雨の頭から手を放してから、そういえば、と疑問が持ち上がった。

「お前の名前出したら急に取り次いでもらえたんだが、何かあるのか」
「え?ほんと?」

しばらく考えてから、長雨が、ああ、と声を出して、門の向こうからインターホンに近付いた。

「ハギさん、聞いてます?」

ブツッ、と、マイクから音がした。

『ラブラブだなオイ』
「取り次いでくれて感謝してますけど、盗み聞きは悪趣味っスよ」
『へいへい』

ブツッ、と再び音がして声がしなくなった。

「………………」
「という訳な」

長雨が俺を見て肩をすくめる。
出刃亀目的か。
会いたかったウンヌンを顔も知らない人間に聞かれていたのだと思うとまた顔が赤くなりそうだ。

「守衛がそういう趣味で大丈夫なのか、この学校…」
「俺も最初そう思った。でも良い人だよ」

屈託無くそう言う。こいつはいつもそうだな、と思った。俺のクラスにいる時も同じだった。

「ああ、そうだ長雨、これ四堂達から」
「え、四堂?」

手にしていたクソ重い紙袋を渡した。

「何だこれ…!」

それを受け取って、一瞬がくりと重力に負けた長雨が、笑い出しそうな顔をする。

「漫画だろ」
「うわ嬉しい」

長雨は素直に喜んだが、その荷物に込められた四堂達の子供じみた意図を、俺は知っている。


長雨に自覚は無いらしいが、四堂達は長雨のいわゆる『とりまき』だった。一年の終わり、赤点続きと出席日数が足りずに留年しかけていた不良グループで、一応進級試験の機会が与えられたのだが、俺を含めたほぼ全員の教師がまず無理だろうと思っていた。
そんな奴等を一人として残さず試験に合格させた唯一の優秀な『教師』が、他でもない長雨だった。それまで一回も会話すらした事もなかったであろう不良グループを、何のメリットもなく長雨は救ってやった事になる。

新学期が始まってすぐ、長雨がいない事に気付いて職員室に乗り込んできたのがそいつらだった。『本人の希望で俺が薦めた学校に編入した』と話すと、リーダーの四堂に胸倉を掴まれた。


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