番外編
5
「何だ、お前別に下手じゃないじゃん」
何とかリーディングのテストを終えた俺の机に佐助が近づいてきて、拍子抜けしたように言った。
「あ、そうか?なら良かった…垣代のおかげだ」
「本当に特訓したのか?ま、上手くもなかったけどな」
佐助はにやにや笑いながら、前の席のイスを引いて、イスの背にまたがるように座った。
「うるさいよ佐助くん」
「はは」
あー緊張した。何とか合格点も貰ったし、これはいよいよ垣代に頭が上がらないな。
「それにしても垣代、すごかったな…」
佐助が呟いて、垣代の席をちらりと見る。垣代は何事もなかったかのようにいつも通り座っている。
「なー」
本当に流暢な、きれいな英語だった。しかも良い声だからなんかもう…洋画を見てるみたいな気分だった。多分クラス全員同じだ。
「俺、お礼言ってくる」
「言ってらっしゃい」
ぷらぷらと手を振る佐助に見送られて、垣代に近づいていく。声をかけようとしたら、それより前に垣代がこっちを振り向いた。
「水上」
「え、うあ、はい」
「来い」
「はい」
そろそろと近づいていく。
「あの、垣代、ありがとうな昨日」
「水上」
垣代は握ったままの拳を差し出してきた。
「え、なに?」
「手を出せ」
言われた通り、その拳の下で手のひらを開くところころころ、と三つ、小さなミルキーピンクの包みが落ちた。
「『ご褒美』だ」
いちご味のキャンディだった。ぶわわわわ、と顔が熱くなる。
「本当に用意してくれたのか」
「ガムシロップよりはいいだろう」
思い出して、さらに顔が熱くなってしまった。ひゃああ。
「よく出来ていた」
「あ、ありがとう」
ぎくしゃくした動きで席まで戻る。佐助が変な顔で俺を見ていた。席についた瞬間、思わずキャーッと崩れ落ちる。
何だあれ!
「なー佐助、ちょっと垣代って格好よすぎないか…!!」
「まぁ、そう言われてるな」
小声でキャーキャー言ってみたら、佐助が何を今更、と言いたげに頷いた。
「俺今初めてこの学校で男が男にキャーキャー言う気持ちが分かった気がする…」
「お前のはそいつらとは若干ニュアンスが違う気がする…」
顔を上げてみたら、何故か佐助はちょっと不機嫌な顔でどこかを見ていた。
「………俺が教えりゃよかった」
「え?」
「何でもない」
佐助の視線を追ってみる。そこには垣代のきれいな背中がある。
まだキャンディは舐めていないのに、上の前歯の裏を舐めると、甘い味がする気がした。
そういえば、『light』の発音は特に完璧に出来てしまった。
2009.5.1.
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