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番外編
3




白虹学園の図書館は身内の欲目は抜きに広い上蔵書も多い。

そもそも『図書室』ではなく『図書館』であり、校舎とも寮とも違う建物になっている。寮などと比べるとこぢんまりとして見えるが、地上三階、地下一階建ての、しかし横長の建築物だ。
コンクリの打ちっぱなしで、一面だけは全面ガラス張りという外装に、迷路のように入り組んだ一部稼動式の背の高い本棚、という奇妙な造りをしている。何でも著名な建築家に設計を依頼したらしいが、中に居るとまるで童話の世界に迷い込んだような気分になる。

階段で案内表を見た。食物系の本は二階の奥にあるらしい。実に厄介な位置だ。

二階に上がる。向かって右側は机と椅子が並び、ガラス側の壁になっていて比較的明るいが、本棚の方は所々に配置されたガス灯を模したような照明にしか頼れない。

机の方にはちらほら人がいたが、水上らしき姿は見えなかった。受付の少年の一人は『見た』と言っていたが、やはり間違いか。違う階にいるのか。もしくは、受付が気付かない間に出ていったのかもしれない。

森に入るように本棚の群れの中に入っていく。こちらを見下ろしているような本棚の間を通っていく。建築・芸術・映像・広告・気象・化学・育児・健康…本棚の側面につけられた金属製の分類表示の内容は多岐に渡る。ほとんどが寄付で、活用されているものは少ないだろう。

随分奥まで来た。もはや生徒の姿は全く見られない。ようやく『食物』の表示にたどり着いたのは、本当に壁際だった。不思議と明るい。窓があるのかもしれない。

「!…………」

最後の本棚を通り過ぎた瞬間、思わず足が止まった。
最奥、大きな窓が壁にある、その下。壁に作り付けられた背の低い本棚に寄り掛かって、水上長雨が、座っていた。

名前を呼びそうになって、思いとどまった。あぐらをかいて足の上に本を乗せている水上はうつむいたまま、本を捲ろうとしない。

近付くと、規則的な呼吸が聞こえた。片膝をついて、顔を覗いてみる。瞼を閉ざしていた。唇が薄く開けられ、寝息はそこから零れていた、


眠っているのか。


煽り窓が開けられていて、風が少し入ってくる。なるほど、寝心地はいいかもしれない。






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