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番外編
2






とは言ったものの、水上に突然そんな事を尋ねるのも妙な話だ。挨拶以外ではほとんど口を聞いた事もないというのに。

生徒会会議が終わり、図書館に足を向けた。食事に関する本を読めば、ある程度知識はつくだろうと考えた。何か疑問が残れば聞けばいい。

図書館に入るには寮のキーカードが必要になる。受付のカードリーダーのところで財布の中を探していると、ぼそぼそと声が聞こえてきた。

「どうだった?常連さん、2階にいたでしょ」
「いや、いなかったぞ?」
「いるって。絶対来てた」

受付の奥からだ。図書委員だろう。声の幼さから言うと1年か。

「あの人の名前分かった?」
「あ、それは分かった。ミナカミナガメ先輩だって」

思わず手が止まってしまった。

「ナガメ?」
「長い雨、て書くらしいよ」
「うわ、かっこいい名前…水上長雨先輩、かぁ」
「でも何か…ひどい噂ばっかりなんだよな。貧乏のくせに学園長に体売って入学したとか情報屋の浅野とデキてて情報操作しようとしてるとか」

少し驚いた。しかしすぐにもう一人が言う。

「それ絶対無い」
「だよな?」

早い。

「何組なの?」
「聞いて驚け、2年A組。編入試験満点って噂」
「やっぱり頭いいんだ。うわーますます憧れる…!」

片方の声が弾む。それに釣られるようにもう片方も。

「A組なのに気取ってなくていいよなぁ」
「絶対受付に挨拶してくれるもんね」
「笑顔かわいいし。美形じゃないけど雰囲気が美人だよな」
「あーそうそう!その表現ぴったり!あとね、手とか見た事ある?指の形すごいキレイだよ」
「うわ、それは次絶対見………」

会話が止まった。受付を覗くと、一人が目を丸くしてこっちを見ていた。アッシュの髪の吊り目の少年だ。奥にいた茶の髪の大きな目の少年も俺を見て、えっ、と声を上げて絶句した。どちらもそれなりに整った顔立ちだ。

「ふ、副会長!?」
「いつから…あ、いや、どうしました?」

アッシュの方が一瞬早く我に返った。

「カードキーを探していただけだ」

財布の定位置から黒いカードを取り出した。

「もう見つけた」

カードリーダーに通す。ピピッ、と音がして、受付の横の自動ドアが開いた。

「ど、どうぞごゆっくり」
「ああ」

自動ドアを潜る。耳にいつかの声が蘇る。

『ありがとう』と、水上なら言ったかもしれない。









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あきゅろす。
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