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番外編
7




「市村」

不愉快そうな声が後ろからした。振り向くと、クロがむすっとしたツラをして立っていた。

「妙な事吹き込むなよ」
「何も妙な事なんて吹き込んでねぇよ。なぁ?ナガメちゃん」

わざと名前を呼んで肩に手をかけると、ナガメちゃんはちょっとないくらいかわいいツラで笑った。

「そうですね」

クロが複雑なツラになった。おもしれぇ。

「市村、水上に野菜は分けてやれるだろ」
「まぁな」
「じゃ、水上、向こうに行こう。こいつと一緒にいるとおかしくなるぞ」
「わ、ちょっ、大牙」

クロに手を引かれて、ナガメちゃんが立ち上がる。戸惑ったように俺を振り返るので、笑って手を振ってやった。そうしたらきょとんとした後に、やっぱり笑った。

ナガメちゃん、知ってるか。俺と二人の時だって、そいつはそんな子供っぽい真似はしない。

にやにや笑ってしまう。

カッちゃんはあの日、嬉しそうに管理小屋に飛び込んできた。自分の息子の相部屋の子が決まったんだと。会ってきた、すごくすごく良い子なんだ、と、息もつかずに俺に言った。

今ならその気持ちが分かる。期待してしまう。
随分長い事、俺達みたいな枯れたおっさんは、あんな子が来るのを待ってた。

少し離れた畑で、クロがナガメちゃんに何か説明してる。声は聞こえない。

だけど不意に、クロが何かに気付いたようで、軍手を外す。ナガメちゃんの顔に手を伸ばす。土が何かがついていたのかもしれない。親指の腹で頬の辺りを撫でるのが見えた。







……………おいおいクロ、




お前今、自分がどんなツラしてるか自覚あるか?

















十分ボーイズラヴになり得るぞ、そりゃあ。








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あきゅろす。
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