番外編
5
水下はあの後、トチ狂った黒石にヤられる。
今まで黒石に甘えていた水下は奴を恐れるようになるが、それによって黒石が荒れていく様子を見ている内、いてもたってもいられなくなる。
そこからお約束にすれちがったりヤったり後悔したり自棄になったり泣いたり喚いたり色々と青春な経緯を経る。まぁ詳細は未定だが。
「あの、市村さん」
とりあえず、さっきの続きが問題だな。黒石に何て言わすか。
「市村さん」
『お前が好きだ』じゃつまらねぇ。『お前が欲しい』『お前とヤりたい』『お前をめちゃくちゃにしたい』。
あー、違うな。
「………えーと、」
それじゃ今までと変わらねぇ。今まで他人なんて性欲処理の道具としか思ってなかったガキが、初めてそうじゃない相手に出会った。そうじゃなきゃならない。
そうじゃなきゃならない。
「ハギ、さん」
「ああ?」
気付いたら、水上ちゃんが目の前にいた。
「どした?クロは?」
「あ、大牙は向こうの方見てくるって言ってました」
「じゃ、どしたの。何かわかんない?」
「いや、そうじゃなくて」
水上ちゃんが胸の前で手を振る。ありゃ、
「水上ちゃん、軍手してねぇじゃん」
「へ?」
そういや渡してなかったっけな。
クロに背負わせてきた用具袋を引き寄せて、軍手一式引っ張り出した。
「手出しな」
水上ちゃんの腕を掴んだ。ほっせぇな。大丈夫かこんなんで。男子校って怖ぇのよ?色んな意味で。
「あ、自分でやります」
「いーからいーから」
手のひらの土を払ってやって、ちょっと驚いた。キレーな指してんな。軍手を突っ込む。止め具がついてるやつなんで、それを止めてやる。
「あの、市村さん」
「ハギでいーよ」
「じゃあ、ハギさん」
「なーぁに」
「初めてお会いした時、失礼な口聞いてすみませんでした」
「ええ?」
水上ちゃんは丁寧に頭を下げた。今まで手伝ってもらった誰より体が細ぇから(つうか今までの奴らがマッチョだったんだけど)ツナギがブカブカで、ファスナーの隙間から胸元が見える。軍手をはめた手は女みたいに見えなくもなかった。
不覚にもちっと、ちっとだけムラッとした。バカか、俺がしてどうする。
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