番外編
6
答える事が出来なかった。
「ですからね、斉藤先生。」
大分頭頂の薄くなった教頭が、椅子に腰掛けたままため息をついた。
「出席日数も成績も足りていない訳ですから、あの四人を進級させる訳にはいかんのですよ」
「しかし」
思わず口から出た言葉が、明らかに異を唱えようとしていたので、はっとして口を塞いだ。教頭が嫌そうな目で俺を見る。周囲の教師達が見て見ぬ振りをしている。声を抑える。笑顔を浮かべようと努める。
「しかし…一気に四人も留年させるというのは、他の保護者にとってもあまり良い印象は与えないと思いますが」
はっ、と、教頭は鼻で笑った。
この男は多分、生徒が人間だということを忘れてしまった。
今、あいつらに留年なんてさせたら学校をやめてしまうのは誰の目にも明らかだ。
「分かっとらんようで。あなたの指導が良くないからこういう事になったのでしょう」
「………そうでした。大変申し訳ありません。全て私の責任です」
この男は知らない。分かろうともしない。それは、あいつら自身も同じだ。
お前らは分かってない。
「しかし、私の指導力不足が元で学校の格を落とすのはあまりに学校にとって損な話です。学校のために、あの四人にチャンスを与えてやるのはどうでしょうか」
「しかしな」
「寛大な対処は保護者にも好い印象を与えると思います。学校のイメージアップになりますよ」
「…ふうむ」
媚びるように笑んで、頭を下げる。
あいつらの未来は輝いてる。
億より兆より遥かにたくさんの可能性を持ってる。
何だって出来るし、何にだってなれるのに、やるより前に諦めてしまう。
「お願いします。教頭先生のお力で」
お前らは分かっていない。
本当に『出来ないこと』なんてそうそう見つかるもんじゃないんだ。
「四堂達にチャンスをやりましょう」
そうだろ。長雨。
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