番外編
5
出て行く間際に斉藤が俺を見て何か意味深に笑った。
何だか知らないが自慢気だった。
真帆、四堂真帆。
確かに記憶が頭に染み付くより小さな、それこそ赤ん坊の頃から一緒にいるけど、自分達が兄弟みたいだとか幼馴染みだとか思った事は無かった。あいつは、そういうのじゃない。
誰かに分かるとは思わないし、分かってもらおうとも思わない。
「お前」
「んー?」
「斉藤とどういう関係だ」
だからその質問にも大した意味は無かった、はずだった。
水上のリズムの良い手が止まった。俺を見て黒い目をきょとんと見開く。
「教師と生徒、ですかね」
「それだけじゃないだろ」
水上はしばらくの沈黙の後、俺の知っている『優等生』の顔とはまるで違った顔で笑った。
「すごいな、宮城」
水上が紙を折る手をまた動かし始める。指が細い。だけど、女の手とは随分違う。
水上は見た目は多分世辞にもモテるタイプじゃない。だけど、この手を好きだと思う女は多そうだと思った。
「なんて言ったらいいのかな。友達ではあるかもしれないけど、やっぱり基本的に俺にとって先生は先生だし、先生にとっても俺は生徒だと思う」
ただ、と、水上は続けた。伏せた瞼を縁取った睫毛が横から見える。
「大切だな」
静かな声だった。
「すごく、大切だ」
どうしてか、真帆の事を思い出した。
小さな頃はよく見た、あいつの笑う顔を。
「…………そうだな」
口をついた言葉に、今度は自分の指が止まる羽目になった。水上が俺を見て、笑んだ。
「分かっていただけますか」
答える事は出来なかった。
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!