番外編
4
「宮城んちってどこだっけ?」
また驚いた。沈黙だろうとばかり思っていたのに。
世間話する気か、水上。
「………2コ隣りの駅」
「駅から近い?」
「………5分くらいか」
「へぇ。それくらいが一番便利だよなー」
「……………」
笑いを堪えるのに必死だった。図太いのか抜けてるのか、怖いモン無しだな、こいつは。
「兄弟は?」
「いない」
「へぇ、意外だな。なんとなく弟か妹がいるかと思ってた」
「………」
「うちは弟がいるんすよ。カミナリって書いて雷っていうんだけど、めちゃくちゃかわいくてさ」
始まった、弟自慢。自慢っつーかもうノロケに近いか。
「母さん似でものすごく美人でさ、わがままで人見知りだけどたまに素直だとすっげーかわいいの」
「…弟、何才?」
「中二」
「……………」
「ぶはっ」
限界。
「なんですか、斉藤先生」
水上に睨まれる。あーおかしい。
「いや、何でもない何でも。話を続けなさい」
ぷらぷらと手を振る。水上は不服そうに宮城に視線を戻した。
「四堂とは家近いのか?」
「………何で」
「え、だって仲良いよな?」
仲良い、か。
こいつの中に『つるむ』とか『群れる』とか『徒党を組む』って言葉は無いんだな。
「ま………四堂は、」
宮城の声がさっきまでとは変わった気がした。
「四堂は、うちの隣りに住んでる。小さい頃からずっと」
「じゃあ幼馴染みなんだな」
宮城が複雑な顔をした。違和感があるのか。聞き慣れない言葉なのかもしれない。水上もそれを感じたらしい。少しだけ笑った。
「兄弟みたいなもんなんじゃないか?」
「……………」
紙を折る音とキーボードを叩く音がしばらく響いていた。
「きょうだい…」
「ぶっ」
「くっ」
宮城がものすごく苦々しい声を出したので、思わずまた吹き出したら、今度は水上と同時だった。
「…………」
宮城が無言で俺と水上を睨む。おっかないツラしてんな、こいつ。まぁ怖くはねぇけど。
その時、ピンポンパンポーン、と放送の合図が鳴った。
『斉藤先生、斉藤先生、いらっしゃいましたら職員室までおいでください。もう一度繰り返します』
あ、くそ。こんな面白い時に。
「ちょっと行ってくるな」
どうせ冊子の書類追加しろとかそういう事だろうが。
「はい。行ってらっしゃい」
律義に答えた水上に笑った。立ち上がって、扉へ向かう途中で宮城と目が合った。
どうだ宮城、
いいだろう、こいつは。
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