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番外編
2






「斉藤先生」



驚かなかった、と言えばそれは嘘だ。




慣れた声に呼ばれて目を向けると、俺の受け持つ中で一番、いや、おそらく身内の欲目抜きにしてこの学校の中で一番優秀な生徒がそこにいた。
そこまではいい。だが、奴が連れてきたのは、俺が受け持つ中で一番問題の多い生徒の一人だったので。

呑気に笑顔を浮かべた秀才・水上長雨の後ろで無表情に立っている男は、確かに頼んだ通り背が高い。手足も長いし力もありそうだから手伝いには最適だろう。素行を除けばな。

「宮城か」

宮城慎。
同じく問題児の四堂真帆のツレだ。そういえば、今日は四堂は休みだったな。あまり一人でいるのは見たことねぇな。
四堂は妙に存在感のあるやつだから気付かなかったが、意外にこいつも存在感が、というか、妙な威圧感がある。水上とは別の意味で、生徒という感じがしない。

「多少時間かかるがいいのか」

これなら水上一人の方が気心知れてて楽だったか。でも結構な量だしな。
宮城は黙ったまま、ただ思ったよりはっきり頷いた。

しかし、驚いた。こいつが素直に来るなんて。
水上に目を向ける。自分がやった事に全く気付いた様子がない。俺と目が合うと不思議そうに目を丸くしてから、にっと口元だけで笑った。



大した奴だな。



「じゃ、頼む。使わないはずだったプリント、冊子にしろって言われてな。あの棚の上」

後ろの棚の上を示す。小さめだが中身のぎっちり詰まった段ボールがいくつも乗ってる。
保護者に配る為の校舎の防犯対策についての資料が突然必要になったとかで、教員数人でジャンケンをして、まぁ俺が担当になったわけだ。あそこでチョキさえ出しときゃ良かったんだが。

「宮城は段ボールを下ろして水上に渡す。下ろしたらそれぞれ一枚ずつ束ねてくれ。俺はたりない資料を作ってるから、分からない事があったら声かけろよ」
「分かりました。宮城、ごめんな。力仕事頼んで」
「いや」

良い声してんじゃねぇか。

「じゃ、頼むな」




若干不安だが、まぁ様子を見よう。






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