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白虹学園
憎まれ口のような

おにぎりを一つ食べ終わるかどうかというところで、ブツッ、と、校内放送のスピーカーのスイッチが入る音がした。ピンポンパンポーン、と、呑気な木琴の音。

『2年A組の武田龍一くん、水上長雨くん、今すぐ職員室まで来てください。もう一度繰り返します…』

ありゃ。

「なんだろうね」

高見沢が何も言ってくれなかったので、俺の呟きはあえなく独り言になった。余っていたおにぎりを口の中に放り込んで、急いで咀嚼して飲み込む。

「じゃ、俺行くわ。お前たまには部屋帰ってこいよ」
「………………」

無視。切ない。まぁそう急には仲良くはなれないか。
立ち上がる。

「おい」
「えっ」

びっくりした。呼び止められたぞ。振り返る。高見沢は一瞬迷ったように視線をさまよわせた後で、俺を見て言った。

「俺は、お前なんか眼中にねぇ」
「………はい?」

眼中に無い、と言いながら、今までで一番、高見沢は俺を『見ている』ような気がした。焦げ茶の瞳がじっとこっちを向いていた。もう一度繰り返す。

「眼中にねぇ。覚えとけ」




きれいな眼と、良い声だ。




あんまり真剣に言うので、思わず頷いてしまった。

「分かんねぇけど………分かった」

高見沢は少しだけ、眉間に皺を寄せるみたいに目を細くした。ほっとしたようにも、悲しそうにも、苦しそうにも見えた。意図は分からない。でも、なんだろう。俺も胸が痛くなるような表情だった。

行こうとして、でも、ふと思い付いて高見沢を振り返って、近づく。

「………んだよ」

しゃがみこんで、高見沢の手を取った。ぴくっ、とその手が一瞬震えたけど、気付かない振りをした。

「ああしまった、おにぎり落とした」

ダイコンにも程があるかな。
余っていたもう一つのおにぎりの包みを、高見沢に握らせる。
丸くなったルームメイトの眼を見て笑んだ。

「…いらねーっつってんだろ」
「食べないならちゃんと落とし主まで届けに来てくださいよ。部屋まで、ちゃんと」
「…………」

うっせーよグシャー!と叩き付けられるかも、と思ったけど、俺の手が離れても、高見沢はおにぎりの包みを握ったままだった。どうしたらいいのか分からないような顔はしてたけども。

「それじゃ、またな。お大事に」

そのむずがゆそうな顔に笑いながら、俺は立ち上がって踵を返して、屋上を後にした。





腹が減ってると、人間元気がなくなりますからね。







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