白虹学園
6
「へぇ、そう。どんな『お話』か知らないけど光栄ですわ」
「……心当たりがあるみたいですね。後ろめたいことでもあるんですか?」
ひい。
バチッ、と、一瞬火花が散るのが見えた気がした。有坂くんは冷めた目をして、また俺を見る。
「あんたも、『滑って転んだ』なんて本気で言ってんですか」
「あー…」
やっぱり気になりましたか有坂くん。
確かに転ぶ瞬間に何かが足にかかった気はしたんだよな。多分、誰かに足を引っ掛けられたんだと思う。
後ろを見る。また俺達の間には空間が出来て、たくさんの好奇の目に晒されていた。
「あのニヤニヤしてる奴らの誰かが、あんたに消えて欲しいみたいですよ」
「お前何様のつもりだよ」
有坂くんの胸倉を佐助が掴んだ。
「事実ですよ。浅野先輩、焦るってことはやっぱり何か心当たりがあるんですか」
「…………」
一瞬、佐助の瞳に影が落ちたような気がした
「………お前長雨に助けられたんだろ。命の恩人にどういう口聞いてんだっつってんだ」
有坂くんの目もきゅっと鋭くなる。
「助けてくれなんて頼んでませんから。礼をする義理も理由もないですね」
「お前最低だな」
「あんたに言われたくないんですが」
「佐助佐助」
後ろからぱっと佐助の腕を掴んで、
「はい、ばんざーい」
上に上げさせた。佐助の手が有坂くんの胸倉から離れる。
「ちょ、なっ…長雨!」
慌てて顔だけ振り返った佐助の頬が少し赤い。野次馬の誰かがぷっと吹き出した。
「いいから。本当に事実だよ。俺が邪魔なやつも居るだろうし、有坂くんに助けてなんて言われてない。なのでおとなしく教室行きましょう」
「ちょ、待てって長雨!」
手を下げさせて、片方だけ放して、もう片方の手を引きながら歩き出した。
「じゃあな、有坂くん。ありがとう」
俺と目が合うと有坂くんは、声も出さずに不愉快そうに眉を寄せて目を逸らした。
高見沢と喧嘩するだけの事はある男ですな。
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