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白虹学園
5

「あ、」

初対面、ではないけど、声を聞いたのは初めてだ。

「有坂くん?」
「………何ですか」

むっとした顔と素っ気ない返事。思った通り、発音がはっきりしていて声が聞き取りやすい。生徒会会計(予定?)でこの前高見沢にボコボコにされてた有坂銀太くんだった。なんと。こんなところで会うなんて。肋骨にヒビ入ったって聞いてたけど。

「退院したのか」
「お陰様で。でもこのままだとまた折れそうなのでさっさとどいてください」

あ、しまった。どうやら転びそうになって有坂くんを突き飛ばしてしまったらしい。俺は有坂くんの上に倒れ込んでいた。

…………あれ?いや、違うな。さっきまで俺らの周りには空間が出来てた訳だし、人なんていなかったはずだ。

「………どいてください」
「あ、すいません」

不機嫌丸出しな声を出されて、慌てて上から退いた。うお、思いっきり肋骨の真上に手置いてたよ。

「本当悪かったな」

立ち上がって手を差し出す。有坂くんは俺を一瞥してから、ふいっと目を逸らした。そうして自分で立ち上がった。


やっぱり嫌われているようです。


「おい!大丈夫か!?」

人込みを掻き分けて佐助が戻って来た。そうして有坂くんを見て目を丸くする。

「え…?」

状況が把握できずに俺たちを交互に指差す佐助がなんだか可愛い。

「えーと、佐助、こちら有坂くん。滑って転んだところを助けてくれてですね」
「……いや、むしろお前が初対面なんじゃねぇの?」

あ、そうか。なんか微妙に知ってるだけに変な感じがするなぁ。

「えーと、初めまして有坂くん。俺」
「知ってます、水上先輩」

今度は凜とした声に遮られた。有坂くんは俺からすぐ目を逸らして、佐助を見る。

「それから、浅野先輩ですね。お話はかねがね伺ってますから」

口調は丁寧だけど、佐助への有坂くんの態度は、どう見ても好意的なものじゃなかった。佐助は一瞬目を丸くした後で、片側の口角を上げて笑った。俺は佐助の悪い笑顔は好きだけど、今のはあまり良い笑顔じゃないな、と思った。何だか心臓が痛くなる。



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