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白虹学園
2
「一応聞くけど、黒岩本人が書いてるって事ありえると思うか?」
「絶対ないと思う」
「だよな」

 佐助の質問には即答をした。大牙が俺と恋愛関係になりたいと思っているとは到底思えないし、こんな文章を書いてメリットもないだろう。
 さらに、登場人物紹介には他にも色んな見知った名前が点在している。多分俺を模したんだろうと思われる、『水下長雨』は、大牙とは仲の良いクラスメイト。しかし話が進むにつれ大牙の欲望を体一つで受け止めることになり、二人の仲は険悪になりつつ、見えないきずなが芽生えていく、らしい。なんてこった。
 情報屋の『浅川佐助』、ヤンキーの『高峰レン』、そして、生徒会の『藤野綾』―――。

「………よく知ってるよな」
「うん、仲がいい人たちのことよく分かってる」
「読めば分かるけど、高見沢と藤堂先輩の喧嘩とかマジでそのまんまだぞ」
「へ、すごい」
「ただ、カモフラージュかもしれないけど、藤堂先輩の口調はずっと敬語だ」
「ちょっと、読んでみたいんだけどいいかな」
「ああ」

 俺は佐助に教えてもらって、いくつかの小説を読んだ。ほとんどのものは短い短編のようなもので、それがうっすらと物語の大枠を繋げていく。黒石の心に抱える闇のようなものを、水下が少しずつ垣間見ていく。そして、黒石が暴走しかけるようなタイミングで必ず現れ、時に釘を刺し、時に叱咤し、時に喧嘩を売る。それが藤野綾だった。

「なんか…この藤野ってキャラクター」
「あー、いいよな、藤野さん。俺一番好きだわ」

 佐助が普通に感想みたいに言って、はっとしたように口を押さえた。おもしろかった、っていうのは正直な感想だったんだろう。俺も何作か見てみて、素直に面白い、と思った。人の感情の機微が細やかで、破天荒なようで傷つきやすい黒石大牙のキャラクターにも好感が持てる。

「………で、すげー気になるのがこのページ」

 佐助は携帯を操作して、トップページの一番下にスクロールした。そこにある小さなドットが微かに色を変えたタイミングでクリックすると、背景が真っ黒なページが現れる。そこに、一つの問いかけがあった。




『大牙の一番大事な人の名前は?下の名前をアルファベットで入力せよ』




 その下には白い入力スペース。

「これって…」
「多分隠しページ。この質問に答えると、秘密のページに行けるってやつだと思う」
「大事な人…」
「ちなみに、登場人物の名前全部アルファベット入力したけど、行けなかった」
「ええ…?」

 佐助の力を持ってしてもだめなら、相当な難問だ。

「お前、心当たりある?」
「これ、質問文が『大牙』になってるよな」
「ああ、それは俺も気になった」

 大牙。『黒石大牙』ではなくて、『大牙』という書き方から、これはもしかすると『黒岩大牙』の事を言ってるんじゃないかな、となんとなく思った。この文章を書いた人間は間違いなく大牙や俺たちのことを良く知っている。だとしたら、この質問は大牙の根幹の部分に触れる質問なのかもしれない。

「現実世界での大牙の大事な人、ってことかな…」
「正直、間違いなく『AYA』だろうと思ってたんだけど、もちろんだめだった」

 やっぱり佐助もそう思ったのか。顔を上げてみたら、思ってたよりずっと険しい顔をしていて、どきりとする。目が合った。佐助は気まずそうにして、すぐに視線を逸らす。

「あのさ、佐助」
「………うん」
「俺、この話書いた人に心当たりがあります」
「えっ」

 佐助がまた俺を見て、まんまるに目を開いた。珍しい顔だ。
 佐助とは違って、にやにやとしたしたり顔から表情が滅多に変わらないある男が、脳裏には浮かんでいた。


 市村萩。


この学園での大牙の事をここまで知っている人は、俺が知る限り彼だけだ。







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あきゅろす。
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